日本生化学会会員のみなさん、
ジャーナルに投稿された論文原稿のpeer review(会長便り第7号)に関する課題について、今号では審査員にかかる負担を取り上げます。
論文審査を引き受けると、2週間ほどの間に原稿を査読してジャーナル編集部にその結果を報告しなければなりません。ひとつの原稿の査読には数時間ほどが費やされ、その間は本来の業務はできません。しかも、出版社はジャーナルを発行することで利益を得ているにもかかわらず、審査員には賃金が支払われません。多くの場合、編集委員長や編集委員も無料奉仕しています。
昨年のASBMBの会報誌に‘Reviewing is a business transaction’と題する記事が載りました(ASBMB Today, August 2013, page 16)。執筆者はトロント大学の教授で、投稿論文の審査は報酬をともなうべきだと主張しています。この人は年に300件ほどの審査にあたっていて、それに費やす時間を計算すると週の1~2日を占めることになるそうです。それなら審査を断ればよいのではとなりますが、“自分の論文の審査を最適の人が断った時のことを考えると”なかなかそうはできません。彼は、原稿あたり100~200ドルの報酬が相応で(市場経済的には400ドルに値するという分析もあります)、これを出版社または著者が負担するのがよいと言っています。著者が出版社に支払う論文掲載料(会長便り第3号)を考えると、この額はけっして法外ではありません。
私は通常のpeer reviewでの審査員が報酬を得る例を知りませんが、ジャーナルとは独立にpeer reviewを行って審査員に賃金を与える企業があります(Nature 494:1621)。Rubriq(http://www.rubriq.com/)という名称のこの組織は、“論文審査に要する時間と費用を軽減させる”ことを目的として2013年に設立されました。著者は、ジャーナルに投稿する前の原稿をRubriqに送って審査を受けます。料金は500~650ドルの範囲で、適用される作業項目の数によって異なります。基本作業は3名の審査員による査読で、Rubriq Scorecardとよばれる判定結果が2週間以内に著者に届きます。査読の形式はジャーナルが行う審査とほぼ同様で、原稿改訂の案も提示されます。650ドルのコースでは、基本作業に加えて「盗用」の有無が調べられ、さらに複数の投稿先ジャーナルの候補が「採択確率」の数値とともに示されます。なお、審査員は登録制で、学位を持ち大学や研究機関での常勤であれば誰でも応募できるようです。報酬は1件につき100ドルです。著者は、ジャーナルへ論文原稿を投稿する時にRubriq Scorecardを添付します。ジャーナル側が独自のpeer reviewを行う際にRubriqでの審査結果を参考にすることで、迅速に採否決定が導かれるという仕組みです。さらに、客観的に採択の可能性が高いとされたジャーナルが投稿先になる場合が多いため、投稿から採択までの時間が短縮されることが期待されます。
Rubriqによる「投稿前査読」がどのくらい利用され、論文採択にどの程度の効果を与えているかはまだ公表されていません。無報酬の仕事は責任感の欠落をまねく可能性があるため、私はpeer review業務に対する賃金は歓迎すべきことだと思います。
次号でも引き続きpeer reviewを扱い、その公平性について考えます。
2014年7月
中西義信