若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

未来に貢献する科学者を目指して九州大学大学院理学研究院
松島 綾美

 photo-h28-4『「ちょっと古くなった肝臓を交換してくる。明日から、また、お酒を心置きなく楽しめるよ。」そういって、同僚は実験室を後にした。私は不器用で、要領も悪いので、昔から何をするにも人一倍時間がかかる。颯爽と出て行く同僚を横目に、コンピュータに実験条件をセットし、AI(人工知能)が結果を報告するのを待つ。今頃、自宅では、ロボットが掃除や洗濯を終わらせていることだろう。ごく当たり前の日常だ。私はその間に、最近古くなってきた肌を生まれたての赤ちゃんのようなもち肌にするために、転写を活性化して肌の細胞を入れ替える化粧品を買いにいくことにしよう。それにしても、私たちの親の世代では、iPS技術で自分の細胞のクローンをつくり、臓器を置き換えて病気を治療するというのは、費用もかかる大変なことだったらしい。今は、この技術は進化して、簡単に組織を複製できる。このiPS技術がつくられたのは、ちょうど祖父母の世代だ。今ではごく当たり前のことだが、当時は驚きをもってその結果は迎えられたときく。今では、個人の全ゲノムデータは生まれたときに解析されているので、それを元に将来どのようなリスクがあるかも、非公開ではあるが寿命も予測できる。ヒトのゲノムがわかっていなかった時代があったなんて、想像できない。当時はどうやって研究活動をおこなっていたのかしら。。。』

 今日、通勤電車のなかで、未来を夢想しました。どの時代にも、新しい自然の摂理の解明があり、新しい理論の構築があり、新しい技術の開発があるでしょう。今、私が研究活動を進められるのは、過去の科学者達の研究の蓄積があればこそです。私は不器用で、要領も悪いので、たくさんの失敗をしてきました。そのたくさんの失敗の中から、現在行っているビスフェノール類と核内受容体の構造機能相関解析研究の芽が生まれ、多くの方々のご支援を得て展開することができました。例えばアインシュタインのように、天才と言われるような生まれ持った才能があれば、それは素晴らしいことです。しかし、そのような天才ではなくても、日々行っている研究活動が、必ず未来の礎になると私は信じています。もちろん、何も考えず、何のフィードバックもせずに、失敗を繰り返すことは、決して良いことではありません。しかし、一番学びが大きいのは、失敗したときであるとも言えます。失敗できるということは、とても贅沢なことです。いろんな意味で私にはだんだん失敗する余裕がなくなってきました。しかし、今、生化学の研究に取り組み始めたばかりの学生である皆さんに、失敗を恐れず、途中であきらめず、絶えず勉強し、論理的に考えながら研究活動に取り組む大切さを訴えたいと思います。無駄は一つもありません。全ての結果が、必ず、未来に繋がっているからです。

 

松島  綾美   氏 略歴
2001年    日本学術振興会特別研究員(DC1)
2004年    九州大学大学院理学府分子化学専攻 博士課程修了 博士(理学)
2004年    日本学術振興会特別研究員(PD)
2005年    九州大学大学院理学研究院化学部門 助手(2007年より助教)
2009年    日本学術振興会特定国派遣研究者(カナダ・Dalhousie大学)
2012年    九州大学大学院理学研究院化学部門 准教授