みなさま、こんにちは。今回は、来月開催される第90回日本生化学会大会の会頭を務められる大野茂男教授(横浜市立大学)にお話しを伺いました。今度の大会は、生命科学系学会合同年次大会「ConBio2017」として開催されることになっています。ConBio2017は日本分子生物学会と日本生化学会が中心となり、35の協賛学会とともに合同年次大会を行うというもので、新しい試みが満載です。
ConBio2017のミッション
水島:大野先生は生化学会の大会というとどのようなどのような印象をお持ちでしたか?
大野:初めての参加は修士一年の時でしたが、口頭発表で論文でしか知らないような先生から質問をされ、研究者の仲間入りをしたような気になって感激したことをよく覚えています。博士課程の途中で分子生物学会ができたので、それ以降、生化学会と分子生物学会にはずっとお世話になっています。プレナリーなどの素晴らしい講演で、印象に残っているのが多数あります。
水島:今回はお世話する側の会頭をお務めになるわけですが、まずConBio2017のアピールポイントをズバリお願いします。
大野:私は、大きな学会の大会の役割は2つあると思っています。ひとつは自分の研究の発表と関連分野の研究者との出会いの場としての役割です。もうひとつは、専門外や周辺領域の「予想もしていないこと」の発見の場としての役割です。今度のConBio2017では、前者の役割を維持しつつ、後者の役割を充実したつもりです。生化学会と分子生物学会に加えて多くの協賛学会の協力を得て、生命科学の様々な分野・領域の面白い部分をシンポジウム・ワークショップで企画しました。専門外や周辺領域の「予想もしていないこと」の発見の場としての学会年会のパワーアップを計ったつもりです。
なお、前者に関しては、学会大会以外にも様々な専門領域に特化した集まりが多数あると思います。一方で、忙しい研究の合間に専門外の話に触れる機会は減じている様な気がします。そもそも、我々研究者は、自分の研究に一生懸命になればなるほど、視野が狭くなってしまいかねない危険に晒されていると思います。その意味で、時に予想を超えたものに出会うことはとても大事だと思います。
水島:生化学会や分子生物学会のような大きな学会の役割は広い範囲の話題を提供することですが、今回はそれのさらなる拡大版ということですね。
大野:まさにその通りです。そもそも「遺伝子」や「分子」というのは生命科学の共通言語のようなものだと思います。「遺伝子」や「分子」を扱う限り、生命科学の様々な分野との関わりが日常的に生じる時代になっています。その意味で、生命科学の様々な分野に触れる機会の提供は、大きな意味を持っていると思っています。生命科学系学会合同年次大会としてのConBio2017はそのひとつの試みです。生化学会と分子生物学会がそれを主導することに意味があると思っています。
水島:生化学会と分子生物学会の合同開催のような大会の合同開催はありましたが、このようなコンソーシアム形式の試みはこれまでも話には上がりながらも、なかなか実現してこなかったわけです。
大野:今回のConBio2017は、分子生物学会の篠原彰さんと語らって、生命科学系の学会の年会のあり方に一石を投じる事をめざしました。学会のトップを初めとするシニア研究者の方々が、学会の年会のあり方について真剣に考えていただく機会になる事を願っています。
ConBio2017の特徴
水島:次に、ConBio2017での新しいとりくみについてご紹介いただけますでしょうか?
大野:分子生物学会の篠原先生とともに準備してきた新しいとりくみを3つ紹介したいと思います。第一は、オンデマンド配信です。大きな大会ではいくつものシンポジウムが並走してしまうため、聴きたい講演をすべて聴けないということが起こってしまいます。また、自分の専門分野の講演は聴かざるをえないとすると、新しい発見チャンスがなくなってしまいます。そこで、今回は一部の講演を録画して、大会終了後に一定期間オンデマンド配信することにしました。視聴は大会参加者に限定していて、誰が視聴したかもわかるような仕組みになっています。講演する側にしても、誰が視聴したかという情報が得られるのは利点だと思います。
水島:日本では大きな会場に限界がありますので、どうしても部屋をたくさん使って並走するということになってしまいます。その制約が一部解決されることになりますね。
大野: 第二の特徴は、参加証にバーコードをつけることです。これは協賛企業にむけた取り組みです。これまでも多くの企業に、展示やランチョンセミナーなどを通じて大会にご協力いただいてきたわけですが、研究者側からの情報を提供しやすい環境にあったとは言い難いです。しかし、大会を運営・開催するというのは、研究者と関連企業が協力して行うものですので、互いがそのメリットを享受すべきです。今回の参加証のバーコードは、企業展示などで読み取ってもらえればすぐに研究者情報を提供できるような仕組みになっています。
水島:アメリカの一部の学会などではずいぶん前から取り入れられていたと思いますが、日本ではまだ手書きでアンケートに答えたり、名刺を交換したりというのが多いですね。勝手に読み取られるわけではないから個人情報的にも問題はないですね。
大野:むしろ、研究者側にとっても手間をかけずに後でパンフレットを送ってもらったりできるわけですからメリットはあるはずです。嫌ならバーコードをかざさなければよいだけのことです。一方、企業側にも大会に協力することの効果がわかりやすくなりますので、双方にとってメリットがあると思います。
水島:企業の協力無くして大会は成立しませんので、今後に向けても重要な取り組みだと思います。
大野:第三は、プレナリーレクチャーのコンテンツ化です。大会では歴史に残るような講演がたくさんありますが、残念ながらそのほとんどはその場限りで消えて無くなってしまいます。それはあまりにもったいないことです。特にプレナリーレクチャーは、優れた教育コンテンツでもあり、人類の宝でもあります。学会の責任でアーカイブ化し利用すべきです。今回のプレナリーレクチャーの講演者の方々にはあらかじめアーカイブ化についてご説明しご了解を得ています。この貴重なコンテンツをどのように利用するかは、今後分子生物学会及び生化学会で考えていただきたいと思います。
水島:大変重要なご指摘をどうもありがとうございました。90年以上の長い歴史を持つ生化学会が担うべき役割だと思います。私の任期もあと3週間となってしまいましたが、次期会長や理事会にもきちんとお伝えいたします。
コンソーシアム形式について
水島:さて、合同大会の企画・運営の舞台裏について少しお話を伺いたいのですが、今回は大規模な大会ということで特にご苦労が多かったのではないでしょうか?
大野:まったくそのとおりです。過去の大会で行って来た企画については、学会事務局などに経験の蓄積ありますが、新たな試みについてはありません。今回は、このような新たな試みが多く、運営を仕切って下さったAE企画さんも、大変なご苦労をされたと思います。ですが、分子生物学会の篠原先生が大変なパワーと熱意で、日々生じてくる様々な問題の解決にご尽力くださいました。今回の試みで得られた貴重な経験の数々は、学会事務局に残りますので、次回以降にお役に立てると思います。そういう思いで行って参りました。
水島:私も、学会事務局にノウハウが蓄積する仕組みは大切だと思います。会場の確保を含めた大会の基本的な枠組みが確立していれば、大会運営の効率化ができると思います。ところで、このようなコンソーシアム形式は今後どのような位置づけになっていくと思われますか?
大野:国際的な見地から見た場合に、大会がカバーする研究者の規模と、学術分野の範囲を考えて比較するとわかりやすいかもしれません。例えば、米国は研究者はわが国の倍以上あると思いますが、それでも米国生化学会・分子生物学会(ASBMB)はExperimental Biologyとして他の学会と協調した大会を開催しています。今年、米国細胞生物学会(ASCB)はEMBOと共同で年会を行うようです。わが国の様に、各専門分野に学会が存在して各々が独自の年会を行っているのは、国際的に見たときに極めて特異な状況であり、いずれ破綻すると思っています。
水島:今回は事前参加登録者数7915名、演題登録数4774ということで、BMB2015より多くなっています。コンソーシアム形式のインパクトがあり、期待されているように思われます。現在までの感触はいかがでしょうか?
大野:若者の人口減少、大学院博士課程の学生の減少、生命科学分野での研究者の減少などを考えれば、今回の大会の参加者も減ることを覚悟していました。それが、少なくとも減ってはいないということですので驚きまました。原因の分析は今後やらなくてはなりませんが、生命科学系学会の合同大会であると言う点が若い研究者へのアピール点になったのかもしれないと思っています。
水島:狙い通りだと思いますが、生化学会と分子生物学会以外の協賛学会からの事前登録者もかなりいるようですね。そのような方が発表できるのが今回の特徴の一つですね。
大野:そうです。今回は、分子生物学会及び生化学会以外の学会は協賛の形でありハードルは低かったと思います。協賛学会の会員が、分子生物学会及び生化学会の会員と同じ資格でこの大会に参加出来ます。ところで、学会の年会は学会行事の中で最大のものです。したがって、他の学会と合同して年会を開催する事は、学会の存立基盤にも関わる重大問題であり、議論の尽きない部分もあります。しかし、ここで是非強調させていただきたいのですが、今回のConBio2017の試みに対し、生化学会、分子生物学会は、自身の存立基盤を脅かしかねない今回の企画に対して、全面的に支援をしてくださいました。主宰者である篠原先生と私から、両学会に対して、こころからお礼を申し上げます。
水島:いえいえ、こちらこそ大変魅力的な大会を企画していただき、大野先生と篠原先生にお礼を申し上げないとなりません。
大野:生化学会会長の水島先生もそうだと思いますが、学会の責任者になると、学会の存続に責任を持つことになります。その構造が、わが国に2000もの学会がひしめいている理由の一つかもしれません。しかし、そもそも研究者にとって、学会はツールのひとつであり、目的やゴールではありません。次世代の研究者の勧誘と育成に、学会に何が出来るのかという視点で考えた時に、その答えの一つが、今回のConBio2017の試みです。
後期事前参加登録について
水島:今回は「後期事前参加登録」という制度があるようですが、それについてご説明していただけますか?
大野:これは、通常の事前登録をしていない当日参加者にのみ関係することです。今回はバーコード付きの参加証を発行しますので、電子データの入力が必要です。当日の大会受付で窓口に並ぶことになります。一方、当日でも自分のスマホやPCで登録すれば、窓口に並ぶ必要はありません。通常の事前登録をされていない方は、「後期事前参加登録」を強くお勧めします。
水島:参加費は変わらないわけですね?
大野:「後期事前参加登録」の参加費は当日参加費と同じになります。ただ、当日の大会受付で窓口に並ぶ必要がありません。強くお勧めします。
ConBio2017参加者にメッセージ
水島:最後に、ConBio2017参加者にメッセージをお願いします。
大野:はい。3つあります。
1.ご自身の研究分野で、発表とディスカッションを通じて大いにご自身をアピールしてください。
2.普段は絶対に触れないような分野で、予想を超えた新しい発見、新しい出会いをしてください。
3.学会の大会の運営が、私達研究者と多数の協賛企業との共同作業によるものであることをご理解の上、協賛企業の企画にもご参加いただけると大変ありがたいです。
水島:大会前の準備でお忙しいところ、本日はどうもありがとうございました。
それではみなさま、ConBio2017でお会いしましょう!
会長 水島昇