若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

新しい研究を切り開きたい東京医科歯科大学
石原直忠

h22_3 私が九大三原研で大学院生としてミトコンドリアの研究を始めてから15年以上になる。博士研究としてミトコンドリアの生化学研究手法を学んだ後に、岡崎の基礎生物学研究所の大隅良典先生の研究室にポスドクとして参加させていただき、膜の生合成、ダイナミクスに強く興味を持つようになった。ちょうどその当時、大隅先生の研究蓄積を元にしてオートファジーの分子基盤の理解が飛躍的に進展していく時期であり、新しい研究領域が形成されていく過程を身近に経験できたのは私にとって幸せなことだった。大隅先生のされたように、「新しいこと、誰もいないところで面白いことを自ら開拓する」ことを自分でも実践したいと考えていた。そこで九大で新しくミトコンドリア研究を始めるにあたり、まだ哺乳動物では未開拓であったミトコンドリアの融合と分裂のダイナミクスに注目して研究を開始した。同時に、三原先生の「生化学的手法で、新規因子を同定することこそ真のブレイクスルーになる」との言葉を信じて研究を進めてきた(が、未だ期待通りの展開を果たせておらず、残念に思っている)。当時、酵母でいくつかの遺伝子が単離・解析されていたことを手がかりにして、哺乳動物での解析系を構築し、関連因子を同定し解析を行い、自分達の手でほぼすべての研究を立ち上げていった。ありがたいことに、先の見えない立ち上げ研究であるにもかかわらず、多くの優秀な学生が参加してくれた。それらの研究成果は現在のミトコンドリア研究に重大な貢献をしてきたと自負している。今回、日本生化学会奨励賞を戴く栄誉を受けたが、これは多くの共同研究者を代表して戴いたものだと考えている。今回の受賞を契機に本研究をさらに飛躍的に展開・発展させていくことが私に課せられた使命であると考えている。

 ミトコンドリアの研究分野が最近本当に面白くなってきた。ミトコンドリアはその重要性から古くから多くの研究が行われているが、一方ミトコンドリア自身の形成、特に哺乳動物のミトコンドリアについての分子理解は長らく残されたままであった。今回の受賞対象であるミトコンドリアの融合と分裂の膜ダイナミクスは、ミトコンドリア自身の特性を変えてしまう反応である。分裂には小さく独立したミトコンドリアの数を増やし、逆に融合により細胞内のミトコンドリアがほぼ1つに繋がっていく。この融合・分裂のバランスが変化することにより、ミトコンドリアが関与する多くの生命現象に影響を与える可能性が考えられるようになった。面白くて役に立つ、不思議なミトコンドリアの世界を、今後もじっくりと眺め続けて楽しんでゆきたいと考えている。