若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
古くて新しい風変わりな糖鎖の研究名古屋大学大学院医学系研究科
岡島徹也
この度は、糖転移酵素の機能に関する一連の研究成果に関しまして、日本生化学会奨励賞を授与頂きまして、日本生化学会の関係各位に厚く御礼申し上げます。私が10年来従事しております糖鎖研究は、これまで生化学会を率いて来られた多くの諸先生方の偉大な研究成果に立脚したものであり、研究を始めるきっかけをお与え頂いた古川鋼一教授を始めとする多くの関係研究分野の諸先生方に感謝申し上げます。
私が糖鎖研究を始めた1990年代の後半は、糖転移酵素による糖鎖合成経路の全容が明らかにされつつある時代でした。糖鎖は、100種類以上の異なる酵素(糖転移酵素)が逐次、糖転移を行なうことで、組み立てられるため、糖転移酵素の遺伝子機能を知ることで、糖鎖機能を分子レベルで追求することができます。当時、古川研究室においても、糖脂質に関連した主要な糖転移酵素遺伝子が、発現クローニングやデータベース検索により次々と同定され、糖脂質糖鎖の合成経路の全容が解明に向かう状況で、このようなホットな時期に糖鎖研究に参加できたのは、非常に幸運だったと思います。また、糖脂質の各種抗体や酵素活性に必要な基質などが、日本国内の諸先生方の研究室において整備されていたことが、一連の糖転移酵素の同定を成功に導く上で非常に重要な要素であったのは間違いなく、日本における糖鎖研究の層の厚さの重要性を再認識致しました。
その後、留学先での研究をきっかけに、上皮成長因子ドメインに見出される、特殊な糖鎖修飾の機能に関わる研究を続けて現在に至っております。本研究においても、生化学的な研究基盤となったのは、日本の生化学分野における先駆的な研究成果でした。80年代の後半に、長谷先生や岩永先生を始めとする研究グループが、血液凝固因子の上皮成長因子ドメインにO-フコース型糖鎖やO-グルコース型糖鎖といった風変わりな糖鎖修飾を発見されております。発見当時は、その奇妙な糖鎖構造の機能的意義について充分な認識をされるには至りませんでした。しかしながら、その後、Notch受容体に同様な構造が見つかり、その生理機能の重要性の理解が進むなかで、古くて新しい風変わりな糖鎖修飾が再び注目されつつあります。
最近、私たちの研究グループもO-GlcNAcで始まる上皮成長因子ドメインの新規の糖鎖修飾の同定に成功致しました。今後も、伝統的な糖質科学研究を一段と発展させると同時に、これから糖鎖研究を目指す若き生化学者の興味を引くような新たな研究領域を開拓し、次世代の糖質科学研究の発展に貢献できるよう、微力ながら努めて参りたいと考えています。