若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

研究を楽しむということ国立遺伝学研究所
平田 普三

h24_4 子供の頃から、動物に興味があり、主に昆虫を捕まえては動き回る様子や食ったり食われたりする様子をずっと眺めていました。今思い返すとひどいことをしていたものですが、これが現在の研究興味の根源だったとも思われます。私は培養細胞を用いた分子シャペロンの研究で学位を取得した後、哺乳動物を用いた発生学研究をしたいと思い、京都大学ウイルス研究所の影山龍一郎先生の研究室で博士研究員として神経分化、体節形成の研究を行い、ダイナミックな発生現象の面白さに魅了されました。発生学に傾倒するうち、形態の形成から機能の発達に直結した発生現象に興味が広がり、2003年にミシガン大学のJohn Y. Kuwada先生の研究室に留学して以来、脊椎動物がどのように運動機能を獲得し発達させるかを明らかにすべく、ゼブラフィッシュを用いた運動発達の研究を行っています。

 観賞用熱帯魚でもあるゼブラフィッシュは発生が早く、研究室レベルで変異体スクリーニングが可能な脊椎動物です。胚期は体が透明なので、また成魚でも皮膚の色素を欠く成魚系統が作製されたことで、ライブイメージングが可能な脊椎動物として認知されつつあります。ゼブラフィッシュは受精から17時間後にヒトの胎動に相当する自発的運動をはじめ、21時間までに侵害刺激に対する逃避運動、さらに36時間までに泳動能を獲得します。私はこれら初期の運動に異常のあるゼブラフィッシュ変異体をスクリーニングし、運動の獲得、発達に関わる遺伝子の同定を試みました。得られた変異体には感覚ニューロンの異常、中枢ニューロンの異常、神経筋接合部の異常、筋の異常とさまざまなものがありました。硬直するような異常運動をする変異体が複数得られましたが、あるものは中枢ニューロンの異常であり、また別のものは筋の異常であることを見いだし、見た目による直感的な判断では運動を理解できないことを知り、運動システムの複雑さに驚くとともに、ますます惹きつけられていきました。運動発達の異常はヒトの進行性の運動障害とも関係し、ゼブラフィッシュの変異体の研究はヒト疾患の原因遺伝子同定、ゼブラフィッシュを疾患モデルとした運動障害の治療実験にも発展しました。グリシン作動性シナプスに異常のある変異体は個人的に一番思い入れのあるものですが、この研究はグリシン作動性シナプスが遺伝的プログラムだけで形成されるのではなく、神経活動に依存して形成されるという発見にも行き着き、これはシナプス形成の研究へと展開しています。

 研究は何を見いだすかによって思いがけない方向に発展するもので、研究の方向性をきっちり定めて研究を進めても、3年後にどういう方向に展開しているかは予想できません。これまでの経験則から、研究が見通しの立たない混沌とした中にあっても自分が面白いと思うことを常に追求していれば、必ず道は開け、研究はよい方向へ発展するようです。今回の受賞を励みに、今後も自分の好奇心と真摯に向かいあい、研究を楽しんでいきたいと思っています。最後にこれまでのアドバイザーである永田和宏先生(現、京都産業大学)、影山龍一郎先生(京都大学)、John Y. Kuwada先生(ミシガン大学)、小田洋一先生(名古屋大学)、川上浩一先生(国立遺伝学研究所)にこの場をお借りして御礼申し上げます。また、これまでの研究室でお世話になった先輩、後輩の皆様、一緒に研究をしてくれた研究チームのメンバーに心より感謝いたします。生化学会の先生方には今後もご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。