若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

したたかに、しなやかに聖マリアンナ医科大学
仁平 直江

 この度は歴史ある日本生化学会奨励賞を賜り、選考委員の先生方、ならびにこれまで御指導くださった先生方や研究室メンバーに厚く御礼申し上げます。

 私が研究を開始したのは遡ること18年前の大学4年次の卒業研究になります。大学3年間の座学を通して生命科学に興味はあるものの、実際にベンチの前に立っても何もできない無力さを感じつつ、私がこれから進める研究は今まで習って来た「教科書に載っている科学」ではなく、「これから教科書に載るかもしれない科学」なのだと実感したことを今でも覚えています。そして、卒業研究に開始した研究成果を3年かけて論文にまとめた際には、このペースで論文になることを考えると生涯に発表できる研究はあまり多くない、だからこそ自分の抱えているテーマはしっかり大切に育てたいと感じたことを覚えています。

 研究はいつも仮説通りに進むとは限りません。仮説通りにいかないからこそ、生命科学は難しく、複雑で面白いと思っています。仮説に沿った結果が得られなかった場合にはあまり長く固執せず、むしろ予想が難しい生命現象を解明する新しいチャンスと前向きに捉え、何度も何度も新しい仮説を考えては、その可能性を検証するための実験に対して、常にフットワークを軽く取り組むことを意識して研究を進めてきました。仮説をたくさん立てることができただけ研究は前に進むと考えているため、このように予期せぬ結果にしなやかに対応することはとても重要であると思いますが、同時に、たくさんの人の目に触れる有名な研究雑誌に載る内容になるよう、こうだったら絶対面白いという、したたかな仮説を立てることも大切だと思います。多くの人の目に触れる雑誌に載せることで、その分子に対する関心が増えると、研究が世界中で広まり、企業の研究者の目に留まれば、社会への貢献も期待できます。私たちの研究を支える科学研究費補助金へのフィードバックのためにも、インパクトのある生命現象の解明につながる仮説を立てることは時に重要だと思います。

 私は冒頭に記述したように教科書に載るような大発見はまだできていません。これまでに奨励賞を受賞されている高名な研究者と肩を並べるには足りないことを自覚しつつ、引き続きしなやかにしたたかに研究を進めてゆきたいと思います。

 

 

仁平 直江 氏 略歴
2010年 東京医科歯科大学大学院 生命情報科学教育部 博士(後期)課程 修了
2010年 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 博士研究員
2011年 東京医科歯科大学 医学部 特別研究員
2012年 東京慈恵会医科大学 医学部 助教
2015年 ハーバード大学医学大学院 ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカルセンター 研究員
2015年 同 講師
2018年 東北大学 歯学研究科 非常勤講師
2020年 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 特別研究員
2022年 聖マリアンナ医科大学 特別研究員