若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
研究とライフイベントの間理化学研究所生命医科学研究センター
今見 考志
現在まで基礎研究者を継続でき、このような伝統ある賞を受賞できたことを振り返ると、とても自分ではコントロールできない運や環境といった複雑な要素が入り混じった結果、ここまで来れたとひしひしと感じます。素晴らしい恩師達に出会えたこと、指導と放任のバランスが私の性格に向いていたこと、博士課程時のラボでは同学年はたまたま私一人で手厚い指導をしていただき、そのおかげもあり論文出版や賞を受賞できたこと、などなど切りがなく、これらの要素のどれか一つでも欠けていれば研究を続けていなかったかもしれません。現在も首の皮一枚でつながって綱渡りしている状況であることは変わりませんが。
このように個々の置かれている状況や環境が千差万別であることを考えると、若手の大学院生に意味のあるアドバイスは一体何か分からないのが正直なところです。結局、答えはなく多くの人・経験との交わりの中で自分で考え続けるしかないのでしょうか。
研究でも絶対にこの仮説が合っていると思い実験してみると外れていることもたくさんあり、世の中に溢れる情報が「ほんとかいな」と疑うことができました。プロテオーム解析から吐き出される出力ファイルではなく、質量分析で得られた生スペクトルを泥臭くみることで意外な発見に出くわしたこともあります。海外留学を通して、多様な価値観があることを文字通り肌で知りました。子育てをして親も子供もどうしてもうまくいかない・コントロールできないことも経験しました。妻が入院していた期間、ワンオペ育児そして集大成の論文の投稿を経験し泣きそうになりました(妻には感謝しかありません)。月並みな言葉になってしまいますが、研究問わずそのような泥臭い経験や価値観を揺さぶられる体験こそ自分を形成し考える力の糧になったのだと思います。是非とも、ネットやAIの力を最大限に駆使しつつも、行動し肌で感じる泥臭い経験をして、各要素を線で繋いでほしいと思います。
最後に、私はフェローシップやグラント(学振やさきがけなど)は何回も出して(大体3回目で)ようやく通るような人間で、この奨励賞も3回目の応募でした。大きな課題に対して、一度目で達成したことは皆無です。研究やプライベートも含めると、程度の差や波はあれ誰一人苦労のない人間はいないと思います。経歴や業績の表面にはみえないその人の背景を想像・敬いながら接し、自身も挑戦し行動し続けたいと思います。
今見 考志 氏 略歴
2010年: 慶應義塾大学・先端生命科学研究所・博士過程修了
2010年: ブリティッシュコロンビア大学・博士研究員
2013年: マックス デルブリュック分子医学センター・博士研究員
2017年: 京都大学大学院薬学研究科・特任助教
2018年: JSTさきがけ専任研究者
2022年: 理化学研究所・生命医科学研究センター・上級研究員