若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

偉くなる前の時間を大切に公益財団法人微生物化学研究会 微生物化学研究所
野田 展生

h25_5 私は学生時代の6年間、東大薬学部の佐藤能雅先生の研究室で蛋白質結晶学の基礎を学びました。この期間が私の研究者としての基礎であり、とても貴重な時間であったと確信していますが、当時は強い危機感も抱いていました。そのころは構造生物学という言葉が使われ始めたころですが、多くの日本の結晶学者は生物屋というよりも化学屋で、酵素反応は分かっても生命現象がわからない、すなわち生物学的なセンスがない人がほとんどだったと思いますし、私もまさにその典型例でした。学位取得後、北海道大学薬学部の稲垣冬彦先生率いるNMRのラボにポスドクとして参加させていただきましたが、結晶学のラボとの文化の違いに驚き、多様なバックグランドのラボメンバーの中にいるうちに知らず知らずのうちに化学屋から生物屋への転換がはかれたと思っています。そして何よりも、オートファジーという大変刺激的なテーマに出会えたことが、その後の私の研究の方向性を決定付けました。

 オートファジーは言うまでもなく、現在東京工業大学フロンティア研究機構の大隅良典先生が世界のパイオニアとして分野を開拓されましたが、大隅先生からは研究以外にも多くのことを学ばせていただいております。「若いうちに偉くならない方が良い。」飲み会などの席で大隅先生が良く口にされる言葉ですが、ポスドク時代はその意味がまったくピンと来ませんでした。しかし歳を重ね、ポストに就き、自身で実験できる時間が徐々に減少し、さらには研究のことを考える時間さえも限られてくると、その言葉の意味が重くのしかかってきます。幸い、私は二年前から教育負担のない研究所に着任したため、大学時代では想像できないほど研究のことだけを考え、自身で手を動かせる恵まれた環境にいます。若いころは当然のことが年を取るにつれできなくなる、そのことを肝に銘じて、今の時間を大切に、偉くなる誘惑を断ち切ってできるだけ長く研究を楽しみたいと思います。