若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
自分が本当に面白いと思う研究をする立命館大学生命科学部
三原久明
私は、京都府立大学農学部農芸化学科の鈴木讓先生の研究室において、当時助手であった渡部邦彦先生の指導の下、プロリン残基導入による酵素の耐熱化に関する研究に携わりました。今にしてみれば、この時期に、生化学的手法を用いた酵素研究の魅力に引き込まれたように思います。学部を卒業後に、縁あって京都大学大学院の左右田健次先生の研究室(京都大学化学研究所)に修士課程の学生として移り、今回の受賞対象となったセレンおよび硫黄を含むアミノ酸の代謝に関する研究テーマに出会いました。それ以来17年以上に渡り、含硫黄補因子やセレンタンパク質の生合成に関する生化学研究を行ってきました。
左右田研で最初に着手したのは、セレノシステインリアーゼという哺乳動物由来酵素の精製とcDNAクローニングであり、当時助教授の江﨑信芳先生、当時助手の栗原達夫先生の指導の下で研究を開始しました。修士課程の間は実験が思うように進まず、日々地道な実験の繰り返しでした。一つの転機が訪れたのは博士課程に入って間もなくの頃でした。それは、やっと解析することの出来たセレノシステインリアーゼの部分アミノ酸配列が、窒素固定細菌のNifSタンパク質(システインデスルフラーゼ)に類似していることが判明した時です。NifSはニトロゲナーゼの補因子である鉄硫黄クラスターの形成に関わると考えられておりましたが、その相同遺伝子が窒素固定細菌以外にも見出されたことから、これらのNifS相同遺伝子が全ての生物の鉄硫黄クラスター形成に関与する可能性があるのではないかと考え、当時ゲノム配列解読が進行中であった大腸菌の酵素について解析を行うことにしました。もちろん、それらの相同遺伝子がセレノシステインリアーゼと関連する可能性も期待してのことです。今振り返ると、随分と乱暴な思いつきでしたが、江﨑先生(教授にご就任)と栗原先生の後押しもあり、好きなように実験を展開することができました。主として、一つ一つ酵素を精製しその諸性質や構造を詳細に明らかにする、という生化学の基本に忠実な研究でしたが、その後の含硫黄補因子やセレンタンパク質の生合成へと発展し、本分野における新たなパラダイムの構築を支える研究の一端程度にはなったのではないかと思っております。
研究室では実に多くの事を学びましたが、私にとって特に印象深いのは、「とことんまで考え抜く」こと、「違う視点で物事の本質を捉える」こと、「自分が本当に面白いと思う研究をする」ことの重要性です。まだまだ教えていただいた事のわずかしか実践できていませんが、これらを身をもって教えて下さった先生方に心より感謝申し上げます。今後は、これまでの経験を活かしながら、自らが運営を開始した研究室のメンバーと共に、生化学の発展のために努めていきたいと考えております。日本生化学会会員の皆様には今後もご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。