若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
確信する瞬間を楽しむ岐阜大学生命の鎖統合研究センター
木塚 康彦
一年に2,3回、実験結果を見ているとき、予期せず自分の中で強く確信できる瞬間が訪れることがあります。
「あ、そうか。こういうことだったんだ」「あ、もしかして、これってそういうことか」。目の前の実験結果を見たとき、それまで頭の片隅で何となく説明できていなかった現象がスッと腑に落ちたり、全く関係ないと思い込んでいた別の結果と急に合わさって、パズルの空いていた隙間が埋まる感じがします。こういうとき、まだ完全に証明されたわけでもないのに、直感的に何かを真に理解した気になります。感覚的なことなので誰にも聞いたことはないですが、生命科学をやっていれば誰しもが感じることではないかと思います。
その理解(もどき)が本当に正しいかどうかはさておき、それは本当に、とても楽しい瞬間です。なぜ楽しいか。それは、その瞬間、世界中で自分しかそのことに気づいていない、そう思えるからじゃないでしょうか。
そして、そういう瞬間に思いついたことは、大抵論文の核になります。実際にこれまで書いてきた論文ではそうでした。これまで多くの研究者の方と接してきましたが、往往にして、実験者が確信を持って見せてくれるデータは信頼性が高いように思います。そしていつ頃からか、自分が「確信」する瞬間を楽しみに研究するようになってきた気がします。
でも確信は必ずしも狙って得られるわけではなく、例えば、何気なしに同じ実験を2,3回繰り返した時であったり、「レーンが余ったしついでにこいつも乗っけとくか」と余計なウエスタンをやったとき、あるいは仲間と研究の雑談をしていたとき、不意に訪れます。はたから見れば、ただ一人で盛り上がっているだけの研究バカに見えるかもしれませんが、本人が面白いと感じることこそが基礎研究の真髄ではないかと思いますので、研究バカで大いに結構じゃないでしょうか。
私には二人のかけがえのない恩師がいます。学生時代(京大薬学)に指導していただいた岡昌吾先生と、ポスドク時代(理研)の上司の谷口直之先生です。タイプは違えど、お二人とも、酵素の単離精製からcDNAのクローニングと、生化学を地で行くような方です。お二人から糖鎖の面白さや奥深さを教わっていなければ、今の自分は間違いなくなかったと思います。たくさんのことを教わりましたが、一番強く刻まれたのは、「オリジナリティの高い研究をしなさい」ということでした。それは言い換えれば、「彼はあの仕事をやった人」、「これを頼むならあいつしかいない」、他の研究者にそう思われるような研究者になれということだと理解しました。残念ながら、まだそうなれていません。「確信」を繰り返した先に、いつか自分のオリジナルの色が見えてくるのを期待して、これからも研究を進めて行きたいと思います。
最後になりましたが、これまでお世話になった岡先生、谷口先生、ラボの方々、また多くの共同研究者の先生方に、この場を借りて深く感謝申し上げます。
木塚 康彦 氏 略歴
2004年 京都大学 薬学部 卒業
2009年 京都大学大学院 薬学研究科 博士課程 修了
2009年 理化学研究所 疾患糖鎖研究チーム 特別研究員
2012年 理化学研究所 疾患糖鎖研究チーム 基礎科学特別研究員
2015年 理化学研究所 疾患糖鎖研究チーム 研究員
2017年 岐阜大学 生命の鎖統合研究センター 准教授