若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

初心を忘れずに秋田大学大学院医学系研究科
齋藤 康太

とても皆さんに参考になることを書ける気がしないので、日々の研究でつまずいた時に思い出すことにしている私の体験について書かせていただこうと思う。
大学一年生の春、はじめて本格的な「生物学」の講義に出た私は、壇上の先生に「今日は高校時代の復習だから、簡単です。皆さん、セントラルドグマは知っていますね。」と言われて、正直焦った。その当時の私は、「DNA:何か遺伝するもの、タンパク質:卵に多く入っていてアミド結合している(高校化学の知識)」くらいであり、RNAも知らなかった。こんな状態だったので、授業にきちんと出たか、さぼっていたかは記憶にないが、夏休みに始めた試験勉強は大変だった。あきらめて、指定教科書になっていた丸山工作先生の「生物学」というピンク色のカバーの本を読み始めた。DNAの複製・転写のところは、驚きながらも、なんとか理解できたものの、翻訳でつまずいた。4種の塩基がトリプレットでコードすれば64種類できるので、20種類あるアミノ酸はすべてコードできると書いてあるが、こんなパズルのようなことが生体内で起きているはずがなく、どうせ読み間違えて勘違いしているだけだろうと思い、理解するのに時間がかかった。またコドン表はあるものの、これがどの生物のものか、わからない。よく大腸菌のことが書いてあったので、大腸菌の話だろうと思ったが、どんな分厚い教科書をみてもコドン表は一種類しか載っていない。これが生物種でほとんど共通であるということを理解した時、鳥肌がたった。

 今では、何気なくホモロジーサーチをし、保存されている箇所に変異を入れ、大腸菌にプラスミドを作らせて培養細胞にトランスフェクションしている。実験がうまくいかないと、なんでこんな簡単なDNAワークを失敗したんだ!細胞にタンパク質が発現しない!リコンビナントがとれない!と落ち込む。けれども、よく考えてみれば、今やっていることは、すごいことである。私が大学一年生の時に感動した種の保存性をフルに利用して実験している。

 また私が解析している因子は脊椎動物に保存されている。脊椎動物はこれまで5億年の間、自分自身の生体内で起こっていることをおそらく自覚することなく、生きてきたはずである。それを自分が初めてタンパク質の機能を見出せるというのは、本当に素晴らしいことである。日々、実験がうまくいかない、論文が通らない、reviewerが厳しすぎると文句を言う毎日になってしまいがちであるが、今後も「初心を忘れずに」日々の進展に感動していきたい。

 何か私自身の備忘録のような文章になってしまいましたが、皆さんも、自分が研究をはじめた動機がそれぞれあるはずで、それをもう一度思い返してみると、リフレッシュして研究できるかもしれないと思います。

 最後になりましたが、これまで、ご指導いただきました諸先生方に心から感謝致します。

 

 

齋藤 康太 氏 略歴
2000年 東京大学薬学部卒業
2005年 東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了
2005年 カリフォルニア大学サンディエゴ校 博士研究員
             日本学術振興会海外特別研究員
2007年 CRGバルセロナ 上級博士研究員
2009年 東京大学大学院薬学系研究科 助教
2018年 秋田大学大学院医学系研究科 教授