若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
神のみぞ知る真実を理解するためには出会いを大切に東京大学大学院理学系研究科
吉種 光
研究のブレイクスルーには異分野の融合、いや人と人との出会いが重要だと考えています。一人の研究者が特定の領域のスペシャリストになり、その領域をさらに押し広げようと思った時に、自分達の手で取得したデータを基礎に、神のみぞ知る真実を想像して新たな作業仮説を立てることは不可欠です。このようなアイデア出しとハードワークの絶妙なバランスのなかでサイエンスは毎日少しずつ前へと進んでいきます。しかし時に、研究の大きなブレイクスルーは研究室の外で生まれます。異分野のスペシャリストとの雑談の中で、または少し離れた分野の論文に出会うことが大きなきっかけとなります。目の前の研究対象をできるだけ近くでより鮮明に見たいという努力を続けながら、時に引いて全体像を捉えることも大切だ、と言い換えることもできるのかもしれません。
このような発想に至ったのは私が研究対象としているのが約24時間周期のリズム性を生み出す概日時計(circadian clock)の分子基盤だからかもしれません。私の研究はCLOCK(正式遺伝子名は、Circadian Locomotor Output Cycles Kaputでその頭文字をとってClockと呼ばれる)タンパク質を基礎とした生化学解析からスタートしました。生化学により一本の木をしっかり記述する技術を学んだ後に、超並列型シーケンサーやバイオインフォマティクス技術を利用した森の全体像を記述する研究に着手しました。概日時計は当初想定されていたよりも広範な機能に時刻依存性を与えていることがわかってきた一方で、広範な研究分野の勉強と、それぞれの領域の専門家との有機的な連携がブレイクスルーへの鍵となります。例えば、本奨励賞の受賞論文にもなっているRNAのA-to-I編集リズムの研究では、A-to-I RNA編集を研究してきた寺嶋氏が研究室メンバーに加盟したことがきっかけで生まれた成果です。木を見て森を見ない研究を否定する風潮もありますが、重要な木がしっかりと見える分解能で森を記述する研究者になりたいと思っています。
このように私は、留学もラボ移動もしないまま、数多くの共同研究者に恵まれ多彩な研究を展開することができました。また、この素晴らしい環境を作ってくれている深田吉孝 教授には、研究者としては真っ白な学部生だった私に、研究者として生き抜くために必要な全てを叩き込んでいただきました。深田研究室に配属されたのは私が22歳の時。その後、約17年間を同じ研究室で過ごすことになりました。最後になりましたが、もはや第二の父とも言える深田教授に、この場を借りて最大限の感謝を伝えたいと思います。ここまで(名誉ある日本生化学会の奨励賞を受賞できるようになるまで)育てていただきどうもありがとうございました(結婚前夜の娘のように)。
吉種 光 氏 略歴
2003年 東京大学 生物化学科 卒業
2005年 東京大学 修士課程 修了
2009年 東京大学 博士(理学)取得
2009年〜現在 東京大学 助教