若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

がん研究のない未来東京薬科大学・生命科学部
佐藤 礼子

この度、日本生化学会奨励賞を頂き光栄に存じます。「がん細胞における薬剤耐性制御機構に関わるタンパク質の解析」という研究テーマに関し奨励賞をいただきましたが、私はこれまで一貫してがん研究を行ってきた訳ではなく、博士号は発生生物学の分野で取得しました。大学院時代は、1細胞の卵からどうしてこんなに様々な形の生物が出来上がるのか、という事がとても不思議で、両生類であるアフリカツメガエルを用いて初期発生に関わる因子やシグナル経路の研究を行っている東京大学の浅島先生の下で研究をさせて頂きました。アフリカツメガエルをはじめ、アカハライモリやウーパールーパーを実験台で育てながら皆自由に楽しく研究していた経験が、私の研究人生の地盤を作ってくれたと思っています。卒業後、発生の研究もまだまだやりたい事はあったのですが、いつか自分は癌になるだろう、という漠然とした思いと、その時に後悔したくないという考えから、国立がんセンター研究所で研究をさせて頂くことにしました。がん細胞は多様なゲノム異常を示し多様な性質を持っているので、一つの治療法ですべての人のがんを根治させる事は難しいかもしれません。しかし、近年、多くの分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害剤などの開発により治療成績が向上していることも事実です。がん細胞の多様性に対処できる様に、様々な種類の治療薬を開発する事ががんの根治に繋がり、やがてがん研究はなくなるだろうと思っています。そして、早くがん研究のない未来で色々な面白い生物の研究がしたいと思っています。その為に、一つでも多くの創薬標的と創薬シーズを同定しようと日々研究に取り組んでいます。最後に、これまで研究指導をして頂いた全ての方に改めて感謝申し上げます。

 

佐藤 礼子  氏 略歴
2006年 東京大学大学院・理学系研究科・博士課程修了
2006年 国立がんセンター研究所・化学療法部
2011年 東京薬科大学・生命科学部・助教
2019年 東京薬科大学・生命科学部・講師