若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
これから研究しようとする方々へ九州大学大学院理学研究院
柴田 俊生
私が研究に携わるようになり10数年。その間、ゲノム情報の整備とともに、その改変技術も革新的に進歩し、生物学がもっと手軽で身近なものになってきました。一方で、科学の発展に不可欠な知的好奇心を持つことが今後ますます重要になると感じます。生物学は生命現象の本質、生命の「なぜ?」に迫る最も身近で謎の尽きない魅惑的な学問だと常々思います。年に数度あるかないかの衝撃を味わうため、まだ誰も知らない現象を解き明かすその瞬間のためだけに、研究をやっていると言っても過言ではありません。そんな私が誰かに「研究者とは」などと大それたことを言うのもはばかられますので、本稿では色んな方からの教えを基に、毎年4月に新配属学生にレクチャーしていること、例えば「マイクロピペットの取扱方法」や「緩衝液とは何か」、「オートクレーブや手袋は過信するな」などと一緒に伝えている一般論的なことを一部ご紹介します。
『自分で調べた方がいいことと、人に訊いたほうが早いことがある』
何でもかんでも人に聞くのは考え物ですが、すべて自己解決するのも危険です。調べたらすぐにわかる教科書レベルのことは自分で解決し、実験手技や方法論は先輩に聞くのがよいでしょう。また、疑問に思うこと、わからないことが出てきたら伸びるチャンスです。疑問が解消されないまま、その疑問点を忘れてしまったらおしまいです。
『コミュニケーションはしっかり取れ』
研究は最終的にはチームプレイです。個人研究なんてものはありません。個人プレイで時間をロスするのはもったいないです。人間関係はやはり何よりも大事でしょう。人と話すこと、研究の話でも良いし、趣味の話でも良い、そういう環境作りから取り組んでいってもいいかもしれません。
『アイディアやひらめきは切羽詰まっているときには産まれない』
研究上のアイディアは、論文を読んでいるときよりも、休日に料理をしたり、雑談をしたり、ジョギングをしたり…意外と全く研究とは関係ないことをやっているときに産まれることが多いです。同様に、大物と呼ばれる研究者は良い趣味をたくさん持っているように思われます。
『最後は気合いと根性』
どんなにエレガントな論文でもアイディアでも、最終的にそれを裏打ちしているのは気合いと根性と体力だと言っても過言ではないと思っています。もちろんたまには閃きやアイディアも必要です。また、世の中便利なキットや機械が登場し、手間暇を掛ける機会が少しずつ減ってきているかもしれません。一方で、研究の大部分は手数を打つ作業ではないでしょうか。論文データの大半は意外とすんなり出ることが多いですが、完成までの残りの10%は泥仕合のことが多いかと思われます。無駄は省きつつ、しっかり体力を付けるのがいい研究への近道かもしれません。
ここまで書いてみて。研究者として本当にすごいと思う方々は、当然のことを当然のように120%こなしているのではないでしょうか。ひょっとしたら研究以外の道に進んでも活躍していたかもしれません。それでは「研究者」としては何が必要なのか。やはり冒頭に書いたようになぜ?という探究心を持ち続けることではないでしょうか?私自身、その基本だけは忘れずにこれからも研究に邁進していこうと思います。
柴田 俊生 氏 略歴
2011年 九州大学大学院・システム生命科学府・博士課程修了
2012年 九州大学大学院・高等研究院・テニュアトラック制助教着任
2017年 九州大学大学院・理学研究院・助教