若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

取りあえず挑戦してみたらどうでしょう?名古屋大学大学院理学研究科
寺島 浩行

この度は日本生化学会奨励賞という歴史ある名誉な賞を頂き、これまでご指導いただいた本間道夫先生、今田勝巳先生、ならびに共同研究者の方々に厚く御礼申し上げます。さて、院生向けに「研究の経緯や成功のコツ」を語るとのことですので、自分のこれまでの研究を振り返り、気を付けていることについて書こうと思います。

私のこれまでの研究の大部分は、細菌べん毛の仕組みについてです。細菌の「べん毛」は、真核生物の「鞭毛」とは全く異なる起源を持つ、運動のための細胞小器官です。真核生物の鞭毛が微小管―ダイニンによる鞭打ち運動をするのに対して、細菌べん毛は回転モーターとして機能する非常に興味深い分子機械です。

さて、本間研に配属された時、私の研究テーマはビブリオ菌べん毛の基部構造の電子顕微鏡観察でした。しかしながら、実験は全く上手く進みません。そんな時、本来観察しようとしている場所とは異なる部位に、これまで他の細菌では報告されていない構造が存在することを見出しました。これを突き詰めていった結果、ビブリオ菌などの一部の細菌に特異的な新規リング構造を発見することができました。この時学んだ一番重要なことは、本来調べたい部分はネガティブデータでも、穴が開くほど観察すると思わぬ発見があるということです。

学位取得後、一念発起し海外でポスドクをしました。しかも研究テーマを変え、米国コーネル大学のAlessio Accardi博士の下でカルシウム活性化クロライドイオンチャネルTMEM16Aについて研究しました。非常に乏しい英語力でしたが、多くの人に助けていただき、論文として研究がまとまりました。この時に学んだことは、恥をかいて当たり前、自分の実力を見つめ直し、困難に打ち勝つメンタルが重要だということです。

さて次に、帰国して今田研に移りました。ここでは、細菌べん毛の構築メカニズムについて研究しました。この研究では、細胞膜由来の膜小胞である「反転膜小胞」を作り、べん毛構成タンパク質を反転膜小胞内へ分泌させ、再構成系によって分泌メカニズムの解明を目指しました。この研究は自分の中でも重要な位置づけの研究です。というのも、これまでに再構成系を作ってべん毛タンパク質の分泌を調べた研究者はおらず、オリジナリティーのある研究になったと自負しているからです。最近は、生化学的な再構成実験は難しい上に手間がかかるので、敬遠されがちです。しかし、再構成実験でしか明らかにできない課題も多くあります。この研究の教訓は、誰かの後追いではなく、本当に必要な実験に挑戦すべきだということです。

私の研究生活は、多くの人に助けられ何とかここまで来ました。学部生の時から数えて18年の研究生活ですが、もしこのまま研究者を続けられれば、後20年以上あります。先は長いような短いような期間です。多くの人に興味深いと思ってもらえる研究を出来るようにこれからも邁進していきたいと考えています。

 

寺島 浩行  氏 略歴
2004年 名古屋大学 理学部 卒
2008年 名古屋大学大学院 理学研究科 日本学術振興会 特別研究員DC2
2009年 名古屋大学大学院 理学研究科 博士後期課程 修了、博士(理学) 取得
2009年 名古屋大学大学院 理学研究科 日本学術振興会 特別研究員PD
2010年 名古屋大学大学院 理学研究科 博士研究員
2010年 米国 コーネル大学 ウェイルコーネル医学校 Postdoctral Associate
2012年 大阪大学大学院 理学研究科 博士研究員
2016年 大阪大学大学院 理学研究科 特任助教
2017年 名古屋大学大学院 理学研究科 助教