若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
継続は力なり大阪大学大学院医学系研究科
松本 真司
この度は名誉ある日本生化学会奨励賞を頂き、大学院生の頃からの指導教員であり現所属の上司でもある菊池 章先生をはじめ、これまでご指導頂いた諸先生方、また一緒に研究をおこなってくれた学生のみなさんに、この場を借りて感謝申し上げます。
今回、奨励賞受賞者から、若手研究者や大学院生に向けてのコメントということで、私自身がこれまで大学院時代から十数年研究を続けてこられた中で、大切だと思うことについて、分野をまたぐ若手の方へのメッセージとして、改めて書いてみたいと思います。
「継続は力なり」。今回、改めて自身を振り返ってみて、研究をしてきた中で、何より大切だと思ったこと、それは“継続すること”です。この“継続”には、目の前の研究テーマや課題をやり抜く短期的な継続と、その先にある次のテーマ、また次のテーマへと研究を展開させていく長期的な継続の両方の意味があります。当たり前のような言葉ですが、今の時代、若い研究者や博士課程大学院生にとっては、とても難しいことのように感じます。
研究の継続は、短期的にも長期的にも、実は日々の単純なサイクルの繰り返しです。①疑問や課題を見つける、②情報収集して仮説を立てる、③計画を立てて実験する、④結果を解釈して議論し、計画を修正する、⑤結果をまとめて報告する、大まかにはこんな流れでしょうか。文字にするとなんとも味気ないのですが、例えば大学院生が取り組む一つの研究テーマに限っても、このプロセスを何度となく繰り返し、どれ一つ欠けても研究を継続して完結させることはできません。もちろん、全ての過程が楽しいことばかりではなく、むしろ思うような結果にならず、苦労することの方が多いかもしれません(経験談)。しかし、逆に言えば、この過程のどこかに自身がわくわくしたり、楽しむことができるモチベーションさえあれば、このサイクルを繰り返して研究を継続することができるともいえます。不思議に思っていろいろ知りたくなる、こんなことがあったら面白いんじゃないかとつい想像(妄想)してしまう、細かく丁寧に実験するのがとにかく楽しい。自分しか見たことのない(かもしれない)結果を見て興奮する、皆でマニアックな議論で盛り上がるのが好き、綺麗な美しい図を作るのにやりがいを感じる、などなどどれか一つでも当てはまるなら、きっと研究を継続できると思います。
研究プロセスの一つ一つを日々着実に継続することができれば、実験計画を組み立てる計画力、その計画作りのために必要な論文を読む読解力が身につきます。さらに、計画に沿って実験を行う行動力と、実験結果をまとめて、次に何が必要かを考える論理的な思考力や、外れた場合の修正力、適応力も鍛えられます。同僚や他の研究者らとのコミュニケーション能力、学会で発表したり、研究費の申請書を書いたりする際には、分かりやすい論理的な文章力や時には芸術的なセンスも必要になります。恩師である菊池 章先生を初め、私が知る研究者として偉大な先生方は皆、このプロセスを高い強度で繰り返されているように感じます。
改めて最後に「継続は“力”なり」。研究の継続によって得られるこれらの「総合力」は、所属ラボが変わり、時には専門さえも変わりうる若手研究者にとっては、アカデミアに限らず、自身の武器になるのではないでしょうか。私自身、まだまだ若輩研究者ではありますが、改めて基本に立ち返り、これからも一つ一つの研究過程を大切に、総合力の高い研究者を目指していきたいと思います。
松本 真司 氏 略歴
2005年 広島大学 歯学部 歯学科 卒業
2009年 広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 博士課程修了 (歯学)
2009年 大阪大学大学院 医学系研究科 分子病態生化学教室 特任研究員
2012年 大阪大学大学院 医学系研究科 分子病態生化学教室 特任助教
2016年より現職 大阪大学大学院 医学系研究科 分子病態生化学教室 助教