若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

オリジナリティある研究を目指して大阪大学蛋白質研究所
茶屋 太郎

 この度、伝統ある日本生化学会奨励賞を受賞させて頂き非常に光栄であるとともに身の引き締まる思いです。何かアドバイスできるようなことはありませんので、その代わりにこれまでの研究生活の中で感じたことを書いてみたいと思います。

 本受賞テーマに関する研究は、現在に至るまでの指導者である古川貴久先生との出会いから始まりました。博士課程への進学を考えている折に、研究室を見学させていただく機会を得たのですが、その際に古川先生が「私たちの研究室では、一人ひとりが”誰々といったらコレ(因子)”と言えるような独自性のある研究を目指している」という旨のお話をされていたのが強く印象に残りました。漠然とではありますが、古川研究室に入れば何か大きな方向性を持った仕事ができるのではないかと思いました。実際に研究室では、新しい物質の発見から生命現象を解明するオリジナリティのある研究成果が次々と発表されており、自分もそれらに続いてみたいという思いを抱き、門を叩くこととなりました。しかしながら、現実は険しい道のりでした。古川研究室では遺伝子やタンパク質の生体における機能を重視、言い換えればノックアウトマウスの表現型が見られるかに重きを置いています。多くのプロジェクトの初期段階では生体において重要な機能を担っていそうな興味深い因子を探索し、これぞといったものを追求します。ところが、最終的にマウスを作製し解析するまではほとんど成果がゼロのような状態が続きますし、解析の結果ゼロになってしまう可能性もあります。表現型を見出すまでは、非常に不安な日々を過ごすことになるのですが、古川先生はしばしば「マウスの表現型が見られるかどうかは神のみぞ知るところだから、それ以外の自分のコントロールできる範囲で自分ができる限りの努力をしなさい」と仰っています。まさに「人事を尽くして天命を待つ」ということだと思います。このお言葉には救われる部分が多く、粛々と研究を進めることが大切であり、そうすれば運もついてくるのかもしれないと気づかされました。研究遂行にあたっては途中で数々の困難に見舞われましたが、冬の寒さがなければ桜は咲かないと信じ淡々と進めていく中で、何気ない会話やたまたま読んだ論文などから着想を得る幸運にも恵まれ、本受賞をさせていただくほどの研究となりました。今後はこれに満足することなくさらに研究に邁進し、生化学の発展の為に力を尽くす所存でございます。

 最後になりますが、研究の基本的なことから研究者としての心構えまで様々なことを教えてくださいました古川先生に深く感謝申し上げます。また、研究の道に進むきっかけを与えてくださった修士課程までの指導者である稲垣忍先生、これまでご指導をいただきました先生や先輩方、研究を支えていただきました技術補佐員の皆様、共に研究を遂行してくださった学生の皆様をはじめ、研究に携わっていただいたすべての皆様に感謝いたします。

 

茶屋 太郎 氏 略歴
2008年 大阪大学医学部保健学科 卒業
2010年 大阪大学大学院医学系研究科 保健学専攻 博士前期課程 修了
2013年 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2014年 京都大学大学院医学研究科 医学専攻 博士課程 修了
2014年 日本学術振興会特別研究員(PD)
2015年 大阪大学蛋白質研究所 助教
2019年 大阪大学蛋白質研究所 准教授