若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
出会う事と、継続する事鳥取大学工学部
佐藤 裕介
本受賞テーマの「ユビキチンシグナルの構造生物学」は、私が博士課程の時に深井周也教授(現・京都大学)のご指導のもと、駒田雅之教授(東京工業大学)との共同研究でスタートしたものです。翻訳後修飾因子として機能するタンパク質ユビキチンは、ユビキチンのどのリシン残基で連結するかによって、それぞれ固有のシグナルを細胞内へと伝達するのですが、私はこれらユビキチン鎖が細胞内でどのように見分けられているのかに興味を持ち、立体構造から明らかにしてきました。この研究をスタートした当初はまだユビキチン鎖がどのように見分けられているのかほとんどわかっておらず、また、構造解析をする上で必要な1種類のユビキチン鎖を大量に調製する手法も手探りの状態でした。しかし、駒田教授や岩井一宏教授(京都大学)のお力添えもあり、最初の成果であるAMSH-LPのK63で連結したユビキチン鎖特異的な切断機構の解明に成功しました。その後、岩井教授のグループからユビキチン鎖はリシンだけでなくユビキチンのN末端アミノ基を介しても連結される事が発見された他、様々なユビキチン鎖の機能もだんだんと明らかにされ、さらに最近では一つのユビキチンに複数のユビキチンが連結した分岐型ユビキチン鎖も細胞内で機能する事が示されるなど、ユビキチンシグナルは当初の想像を超えた多様性がある事が明らかになってきています。このように次々と新しい事が明らかとなっていく中で、私はこの分野に継続して取り組むことで構造生物学的な観点からユビキチンシグナルの解明について貢献をする事ができ、この生化学会奨励賞を受賞することにもつながりました。振り返ってみると、現在も発展が続くこの分野で成果を収める事ができたのは、この分野に初期から関わり研究を継続した事で、知識と経験を積み上げてきたからこそだと感じます。面白い研究分野の初期から関わる事ができたのは幸運であったと思うのですが、面白そうな事はなんでもやってみようという意識がないと幸運に出会う事もできないため、興味がある事には研究分野でも、研究手法でも、どんどん手を出してみるという事が大事であると思います。それと共に、面白い事に出会えたら継続して取り組むという姿勢も必要です。面白い事を探し出会う事と、継続する事、そのバランスをどう取れば良いのか、今でもその答えはわかりませんが、その2つを大事にしてよりよい研究を目指していきたいと考えています。
最後になりますが、このような伝統と栄誉ある生化学会奨励賞をいただき、関係の諸先生方、またこれまで私の研究生活をご指導いただいた深井周也先生をはじめ、常日頃から多大なサポートをいただきました共同研究者の方々には、この場を借りて心からお礼申し上げます。
佐藤 裕介 氏 略歴
2007年 東京工業大学大学院生命情報専攻修士課程修了
2007年 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2009年 東京工業大学大学院生命情報専攻博士課程修了(理学)
2009年 東京大学放射光連携研究機構 助教
2016年 東京大学分子細胞生物学研究所 助教
2018年 東京大学定量生命科学研究所 助教
2019年 鳥取大学工学部 講師(現職)