若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

基盤を築き、他を学び、基盤を拡げ深める東京大学先端科学技術研究センター
服部 一輝

 きっかけは、2014年の米国派遣プログラムへの参加でした。米国のトランスレーショナルリサーチの実情を学ぶ過程で、異分野融合を促進するには、人材交流が必須だと感じました。ここでいう人材交流は、異なるバックグラウンドを持った人同士が対話をすることだけではなく、人が異分野に実際に動くことを指します。率先して異分野融合を推進するためには、自らが分野を横断するのが最速だと考え、バイオエンジニアリング・マテリアル工学・光学・流体工学を専門とした研究室に参画し、今でも学び続けています。

 そもそも異分野融合の意義を認識し始めた理由は、実に単純なもので、生命現象を理解するためには多角的な視点が必須だと、複数の共同研究を経験する過程で感じたためです。実際に、ひとつの実験結果から得られる洞察は、人により大きく異なることを何度も実感しました。私自身は11年にわたり、生化学・分子生物学を基盤とした研究を続け、これら学問体系が多くの生命現象を明らかにできることを体感してきました。そこで次のステップとして、その体系では解決しづらい課題に挑戦する術を得るため、自らの分野から遠い研究室への参画を決めました。

 ただ、あくまで追求したいのは生命科学であり、私の基盤となっている生化学・分子生物学に対して、異分野の学びをいかにうまく融合させるかがこれからの鍵です。異分野の知識を巧みに統合しないと、技術的な表面上の融合に留まり、自らの研究基盤を拡げることには繋がらないだろうと、少し危機感を感じています。一方で、生命現象を詳らかにする生化学・分子生物学の重要性を再認識しながら、他分野の技術・知識を組み入れるプロセスの面白さ・心躍る感覚には、他では代え難いものがあります。今後も学びを続け、真の異分野融合研究を達成したいと思っています。

 幸運にも、これまで一貫して、とても楽しく研究を続けられています。このような環境を作って下さった先生がた、研究室メンバーのみなさま、そして、家族に深く感謝申し上げます。ひとりでも多くの方が、楽しく研究活動に従事できることを願いつつ、そのような環境づくりに少しでも貢献できればと思います。

 

服部 一輝 氏 略歴
2013年 東京大学薬学系研究科修了、博士(薬学)
2013-2018年 東京大学薬学系研究科、特任研究員/特任助教/助教
2018-2020年 MIT、Brigham and Women’s Hospital、ポスドク研究員
2020年-現在 東京大学先端科学技術研究センター、特任研究員/特任助教