若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

学問の王道東京大学医学部/マサチューセッツ工科大学コーク癌総合研究所
鈴木 洋

 h26-3この度は、マイクロRNA (microRNA)の生合成と遺伝子発現調節機構に関する研究について、日本生化学会奨励賞という大変名誉ある賞を頂戴し、諸先生方ならびに学会関係者各位に厚く御礼申し上げます。私のこれまでしてきた研究の内容が非常に生化学的かと言われると、そんなだいそれたことはもちろん言えようもありません。しかし、今回の受賞を機会に自分自身で生化学とは何だろうかと考え直すと、生化学はまさに「生物学の王道」の1つであるように思います。

 私は、大学生時代、再生医学的な意味合いで「さまざまな細胞はどうやってできるのか」ということに興味をもっていた時期があり、当時はいわゆる転写因子による制御が注目されていたのですが、そうではない側面が重要であるはずだと考え、RNAやこれまで研究してきたmicroRNAに興味を持ち始めました。その後、大学卒業後、研修医として働き始めたので研究からは遠くなったのですが、一日の業務が終わってあと30分、1時間とmicroRNAなどの論文を読んで何とか攻めるアプローチはないものかと考えていました(microRNAに関する論文がNature, Science, Cellといった雑誌にどんどん出始めた頃です)。その後、東大分子病理学で宮園浩平先生から新しい分野を開拓しようというチャンスをいただけたので、大学院生としてmicroRNAに関する研究を開始しました。かなり途中を省略してしまいますが、分子生物学、生化学、バイオインフォマティクスなど色々なアプローチでmiRNAについて研究して今に至ります。

 ということで、私自身の生化学の修行は諸先生方と比較して全く誇れるようなものではないのですが、生化学というと、教養学部の時に受講した、とある名物教授の生化学の授業が非常に印象に残っていて、酵素反応速度論をきれいだなと思ったことを思い出します。miRNAと酵素反応速度論、一見関係なさそうに見えるのですが、実は最近、miRNAとは何か、miRNAはどのようにして機能するか、という普遍的な問いについて、そして、RNAiの発見/miRNAの発見から永らく謎のままであったある問題が、この酵素反応速度論の拡張によって解かれることに気付き、「生化学」の不思議な力を実感しました。こういうタイプの生化学もあるのかもしれません。生物学・医学は、基礎でも応用でも、現在、非常に多様なアプローチが可能であり、そして、(特に日本では)応用を魅せることが重要視されがちですが、基礎の、生化学のエッセンスがなければそれらは可能でないように思うのです。

 現在、私はマサチューセッツ工科大学(MIT)のPhillip A. Sharp教授(1993年ノーベル生理学・医学賞)のもとに留学しています。彼はもともと化学でPh.D.を取得した人ですが、生物を化学として見ることができることは、大きな強みです。

 日本では最近、研究者も持続可能な社会ということを言うようになっていますが、Philらが持続可能なサイエンス/研究/学問のために努力していることを目の当たりにすると、日本と世界の差は開きつつあるのかもしれません。MITではいろいろ勉強になりますが、「学問には王道しかない」ということを再び噛みしめています。「世界と勝負」、研究に邁進して行きたいと思います。

鈴木 洋 氏 略歴
平成16年3月 東京大学医学部医学科卒業
東京大学医学部附属病院臨床研修医、後期研修医、日本学術振興会特別研究員 (DC1)を経て、
平成22年3月 同大学院医学研究科早期修了 博士(医学) (宮園浩平教授)
平成22年4月 東京大学大学院医学系研究科 分子病理学 特任助教
平成26年4月 マサチューセッツ工科大学コーク癌総合研究所 (Phillip A. Sharp教授)