若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

勉強もしないと東京都医学総合研究所
佐伯 泰

h26-5まだまだ現役で手を動かしているものとして、若い方への文章を書くというのは中々難しいのですが、1つ後悔していることを書いてみます。この数年、遺伝学や質量分析計を用いたスクリーニングをたくさんしています。すると全然知らない遺伝子がたくさん取れてきます。勉強をし直す良い機会と思い、Molecular Biology of the Cellを読み直してみると(実は、学生時代もそんなに読み込んだわけでもありませんが)、生命科学の全ての分野がたった15年でここまで進んでいたのかと本当に驚きました。もちろん、自分の専門分野であるユビキチン‐プロテアソーム系の主要な論文は把握していますし、専門外の分野もNature Reviews誌などで幅広く読んできていたつもりですが、やはり、自分の研究に近いところしか目に入っていなかったようです。これは本当に大きな失敗でした。昨今の熾烈な研究競争で中々まとまった勉強の時間を取れないのが実情で、自分の専門分野の文献を読むので精一杯かもしれません。寧ろ勉強するよりトップジャーナルを出すのが先です!なんて意見も聞きますが(私もそうでした)、昔はともかくこれからは逆でしょう。多くの実験がキット化により画一化され簡単になり、次世代シーケンサーや質量分析計の高度化により数百から数千、数万?の分子を対象とした網羅解析が既に一般化しています。例えば、免疫沈降物のMSによるショットガン解析などでは大抵500~1000個の相互作用タンパク質が同定されますが、新しい分子なり新しい経路なり世界で誰も気がついていない発見が含まれているはずです。目の前のリストに宝があるかもしれないのに、それを見過ごすのはとても残念です。実際、私も競争で負けてからデータを見直して自分のセンスの無さに愕然とすることも多々あります。専門分野のみの知識では、やはり見たいものしか見えませんし、大抵のボスは忙しいので、実験者自身が見つける必要があります。ちょうどThe Cellも第6版が出たばかりですので勉強してみては如何でしょうか。ちなみに第6版でプロテアソームの原子構造モデルが追加されており、プロテアソームのみならず、ユビキチン、オートファジーなどタンパク質分解に関する文章も増えています。このように定点観測にも最適かと思います。第7版に自分の図が載ることを目標にしても良いかもしれません。頑張って勉強する時間を確保しましょう。

佐伯 泰 氏 略歴
2003年 北海道大学大学院 薬学研究科 博士課程修了 博士(薬学)
2003年 日本学術振興会特別研究員(PD
2007年 東京都臨床医学総合研究所・研究員
2013年~ 東京都医学総合研究所・副参事研究員