若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-
人から信頼される研究者に東北大学大学院 医学系研究科
鈴木 未来子
奨励賞を頂いた研究は、私にとって、まさに奇跡の連続でした。今回はその奇跡的な出来事についてお話したいと思います。白血病でみられる3番染色体転座において、GATA2遺伝子のエンハンサーが、原がん遺伝子EVI1の近傍につねに存在しているという事実に気づいたとき、私の頭に「このエンハンサーがEVI1遺伝子の発現を活性化することが、白血病発症の原因ではないか」という仮説が浮かびました。大学院生の頃からGATA因子を研究していた私にとって、これは確信に近いものだったのですが、これをどうやって証明するかが大きな問題でした。当時、ミシガン大学のEngel教授らが、二つの大腸菌人工染色体(BAC)クローンをCre-LoxPシステムを用いて結合する技術を開発していたので、この技術を導入して染色体転座を再現するマウスを作製し、仮説を証明することを思いつきました。
しかし、このアイデアを意気揚々と最初に研究室で話したとき、周りの反応は冷ややかで、「本当にできるの?」という意見が大半でした。今思えば、十分に確立されていない技術を使って証明するというのは、無謀と思われても仕方がありません。それでも、研究室のボスである山本雅之教授がOKを出してくれて、大学院生の山㟢博未さん(現 弘前大学助教)と一緒に、実験を始めることができました。幸運にもEngel教授の研究室を訪ねる機会をもらい、必要な材料をすべて頂きました。山㟢さんは複雑な手順をひとつひとつ確実にこなし、ついにBACクローンを結合させ、仮説を証明することに成功しました。
ここまででも、すでに奇跡的ではあったのですが、この研究の奇跡はまだ続きます。この論文を投稿しているとき、ある学会でエラスムス大学のDelwel教授らが、ヒト臨床検体を使って私たちと全く同じ結論を導いていると、複数の知人から連絡をもらいました。その際、Engel教授がすぐにDelwel教授のもとを訪ねてくれて、Delwel教授とともに、双方の論文を投稿した雑誌(偶然にも同系列の雑誌)のエディターに手紙を書き、両方の論文を読んでほしいということを訴えました。それが受け入れられ、私たちの論文は、Delwel教授らの論文と同時に、ヒトの臨床検体と遺伝子改変マウスの両面から証明した強い事実として発表することができました。またこの成果により、白血病のWHO分類が書き換えられました。
ここまで奇跡的と書きましたが、実はこれらの奇跡は、たくさんの優秀な人々に助けてもらうことによって実現したものに他なりません。このような幸運は頻繁にあることではないですが、重要なことは日頃から信頼を得ておくことだと思います。研究室に参加したばかりのときに、教授から「研究室内の人に信頼されなければ、外で信頼を得ることなどできない。まずは周りの人たちから信頼されるように努力しなさい。」と言われたことを今でも覚えています。大学院生の皆さんも、この機会に自分は信頼されているかを研究室のすぐ隣の人に聞いてみるのがよいかもしれません。
鈴木 未来子 氏 略歴 2008年 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士課程修了 2008年 東北大学大学院 医学系研究科 医化学分野 博士研究員 2010年 同 医化学分野 助教 2011年 米国ミシガン大学短期留学 2011年 東北大学大学院 医学系研究科 分子血液学分野 助教 2013年 同 ラジオアイソトープセンター 講師(現職)