若手研究者に聞く-奨励賞受賞者からのコメント-

未知なる島を目指して神戸大学バイオシグナル総合研究センター
辻田 和也

 将来は船乗りになって、世界の海を航海したい。海の目の前で生まれ育った私は、広大な海に漠然と憧れていました。しかし、そんな冒険のような職業は現代にはないことに気付き、失望したように思います。小学校低学年の頃から、毎日のように海に行っては、網で海洋生物を採り、釣りを楽しんでいました(餌は現地調達や数百円のゴカイ)。自宅に水槽を何台も置き、捕まえ釣った魚たちを毎日飽きずに観察して、子供ながらに生命の多様性・神秘性を自然と学んだように思います。そういうわけで、幼少期から「生命とは何か」に漠然と興味を抱いており、大学院で一流の研究がしたいと考えて、細胞内シグナル伝達研究の最先端を走っていた竹縄忠臣先生(当時東大医科研)の研究室に進みました。私が配属された第二研究室は、当時助手をされていた三木裕明先生(現大阪大学)と大学院生の末次志郎先生(現奈良先端技術大学院大学)が在籍されており、優秀な先輩方がハードワークする様子を目の当たりにして、一流の研究の厳しさを痛感し、自分はここでやっていけるのかと不安になったのを覚えています。しかし、研究を始めてすぐに、研究計画を考え、実験をすることが非常に楽しくなってきました。子供の頃、夢中で海洋生物を観察していた昔の記憶「好奇心」が蘇ってきたのです。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、好奇心を満たすことができる研究が面白くて、不安よりも楽しさが勝り、ハードワークも苦ではありませんでした。しかし、当然ですが、好奇心だけでは研究はできません。幸いにも、竹縄研の優秀な方々のお力添えのおかげで、研究者として生きていくための能力を学ぶことができました。特に竹縄先生の御言葉はいつも鋭く、本質的で、サイエンスをするうえで大切なことをたくさん教えて頂きました。その中で、座右の銘にさせていただいている御言葉があります。これは研究者を目指す若い学生の皆さんの心にも響くと思います。「独創的な研究をするためにはビジョンとストラテジーが重要である」「流行を追うな、他人の後追いはするな」。

 船乗りにはなれなかったけれど、研究という冒険に旅立つことはできました。他人が行ったことのない未知の世界を目指すことは危険で勇気が入りますが、大航海時代のように遭難して命を落とすことはありません。人が見つけていない島を見つけ、時には多くの人が押し寄せてくるような大陸を見つけることはできないか。そこで開拓するのもいいけれど、できれば他人にしてもらい、また新しい島を見つけに旅立つ。そんな大それた妄想に耽けながら、一つでも名を残せる島を見つけることができたらと、大海原に乗り出した気分で研究を楽しんでいきたいと思います。

 

辻田 和也 氏 略歴 2006年 東京大学理学系研究科博士課程修了 同年東京大学医科学研究所博士研究員 2007年 神戸大学大学院医学研究科特命助教 2013年 神戸大学バイオシグナル研究センター助教 2016年より現職
2015年 AMED-PRIME研究者(兼任)