会長便り第1号として、両副会長との座談会〜その1〜をお送りします。
なお、この座談会記録の内容は、各人の発言の意図が会員の皆様に正確に伝わるよう、録音の文字起こしの後に編集を加えた上でお届けするものです。文字起こし文はA4にして50 ページ近くにも及んでしまったため、今後数回に分けて、生化学会に対する熱い想いをお伝えしたいと思います。
一條秀憲 

 

〜その1〜

日本生化学会 会長・副会長座談会

日時:2022 年 2 月 18 日(金)午後
場所:東京大学 薬学系総合研究棟 1F 186-2 一條教授室
出席者:会長/一條秀憲、 副会長/水島昇、横溝岳彦、
事務局/渡辺恵子

 

【会長】本日はお忙しいところどうもありがとうございます。
私にとって念願のひとつであった、両副会長とのフランクな懇談を始めさせていただきます。この目的は、今、生化学会の中でどのようなことが議論されているか、また新しい体制の中で生化学会がどういう方向性を目指しているかということについて、会員の方々と少しでも多くの情報共有ができればというのがひとつです。

また、いよいよ創立100周年の節目を迎えようとする生化学会には、古くて新しい課題もたくさんあります。過去をふり返りつつ、生化学会にはどういう問題があって、それらがどのように解決されてきたかについても併せてご紹介できればと思っています。

さて、テーマをきちんと決めているわけではありませんが、ざっくりと今日は、財務、会員数、女性比率、LGBTQ、支部活動、留学助成、他学会との関係、社会との接点、これからの生命科学等々に関して、議論出来ればと思っています。

それでは早速ですが、まずは、学会の財務状況から話を始めたいと思います。
資料のグラフを見ると、財務に関しては赤い棒グラフが正味財産額、青の折れ線グラフが会費収入で、明らかに10年ぐらい前の2011年からそれまで急減していた正味財産額がある程度のところで下げ止まって、最近では会費収入もちょっと上向き加減になっています。

【渡辺】 会員数は今も漸減傾向ですが、回収を結構スムーズにできるようになったので安定しています。

【会長】 たしか水島さんが会長をされていた時に一度会員数がちょっと増えたのですね。

【水島副会長】 1人(笑)。

【会長】 1人だけ?(笑)。でも、あれはそれまでに比べると衝撃的な。何年でしたっけ?

【渡辺】 2016年です。さらに2017年にConBioがあったのと、他学会に倣って幽霊会員を除籍するのを2年から3年に延ばしたので一時上向いたのですが、その後コロナの影響もあって、特に学生会員数は急減しています。一方で、正会員数はあまり変わっていないので会費収入としては比較的安定しているようです。

【会長】 正味財産と会費収入の下げ止まった時期というのがそこそこ一致しているんですよね。だから、会員数がある程度増えるというか、人口減少の中でもある程度のところで留まるというのが非常に重要だと思います。

【横溝副会長】 あと、生化学会誌の全員無料配布をやめたということがありますね。生化学会誌関連の支出がすごく大きかった。

【会長】 生化学会誌に関しては、石川会長の時の執行部の努力でまずオンライン化ができたことが大きかったですね。あれが実現したから、希望者のみに印刷体の有料頒布も可能になった。ただ、いまだに生化学会誌の出版事業に関しては、800万円の赤字なんですよね。

【横溝副会長】 これが前は数千万だったですね。

【会長】 はい、そうなんですが、一方で、JBはずっと黒字が続いている。

【渡辺】 これはビジネスモデルが違うので、JBはもともと論文を売っている商売なので。

【会長】 ただ、まぁ一言で言うと、とにかく今は非常に健全な財務状況になっている。日本生化学会は公益社団法人ですが、内閣府から公益社団法人として認定されるにはいろんな条件をクリアする必要があって、事務局はもちろん、当時の中西会長、石川会長も非常に尽力されたわけです。

収益事業はいくらやってもいいのだけれども、公益であるが故に黒字を還元しなくてはいけないというところがあって、要するに利益を出してはいけないという、難しさがあるのですね。一方で格式と言うと変かもしれないけれども、社会的信用度の高い非常にしっかりとした法人というお墨付きをもらっているというところがある。それに比べると公益じゃない法人とかNPOは利益をどんどん上げて貯蓄していいという自由さはあるのです。

ただ、生化学会も収益を増やしてはいけないわけではなくて、増えた収益は年度内にそれなりに支出すればいい訳です。過去十年くらいにわたる、それこそ本当に血のにじむような努力でスリム化は十分達成できてきたので、あとはむしろ収益をどんどん上げて、それをいろいろな事業に投入して行くべき時がきているように思います。攻めに転じるというか、後で話題になるかもしれませんが、収益は、例えば支部活動とか研究助成や留学助成とかの出資事業に使うことができるので、それが今後目指すべき重要な方向性のひとつかなと思います。

財務状況に関しては現状をそんな感じで捉えているのですが、皆さんいかがでしょうね?これからは、積極的な増収案を考えていくのが重要かと。

【横溝副会長】 今、少し事務局でやってもらっている広告関連、Webの広告と、あとメールで流している情報、あれは僕は非常に積極的な試みでいいと思っています。ただ、ああいうのは収益としてはそんなに大きくはないですよね?

【渡辺】 そうですね、今、メールとWeb広告で年間で200万円ぐらい稼いでいます。

【横溝副会長】 200万はそんなに小さい額じゃないですよね。ぜひこれからも積極的に進めてください。

【渡辺】 ただ、ほかの学会がやり始めるとクライアントを取られるかもしれない(笑)。

【会長】 だいたい年間あたり1億3000万か4000万円の収入があって、ほぼ収支トントンという感じで動いているということですね。

【渡辺】 今期はたまたまコロナで理事会が全てオンラインになって、交通費とかが浮いているので、その分も黒字になっています。

【横溝副会長】 あとはどんな収入があるんですかね。学会の企業展示なんかはこれからはなかなか厳しいかな。生化学会に限らず、ほかの学会でも企業展示というのは難しいし、そもそもあれは学会本体には入らなくて、企業展示をやったら「大会」のほうに入るのですよね。

【渡辺】 そうですね、資料の「大会」を見ていただくと見かけ上マイナス780万円になっています。これは本部で大会に対して出資している元々織り込み済みの金額としての780万円ではあるのですが、これがトントンで終わっています。結局学会としては支出する形で終わっているので、もし将来的にここで利益を得ることができれば本当に安定していくのかなと思います。ほかの事業「表彰」とかは絶対的にマイナス、支出のみで収入ではないので。収入を得るとしたら大会事業か新しい事業を立ち上げるしかないですね。

【会長】 今の話だけど、大会でもし黒字になれば、それは生化学会としての収入になるわけですよね。だから、それは収益事業として十分期待していいのではないかと思うんです。今年度の大会はコロナの影響で完全オンラインになりましたが、大会長の深水さんの機敏な英断と大会組織委員会の方々の見事な運営のおかげで赤字を免れました。リアルの会場費の莫大なキャンセルフィー期限がギリギリに迫る中、本当に大きな決断だったと思います。

【水島副会長】 先日の話し合いでは難しいということになったのですけど、寄付をもっと集められないかと思うのです。生化学会だけの問題ではないですけど。学会と社会との関係になりますが、国からとか企業からとかだけではなくて、公益社団法人なのだから一般の方々からも支援していただくという切り口があるといいかなと思います。

【会長】 その寄付を受けることが今は公益法人規定上できない状態になっているのですか? そんなことはない?

【渡辺】 もちろん、寄付は受けられます。ただし、一般の方々からの寄付の場合、寄付者が全ての優遇税制措置を享受できる法人として認定されるにはかなり厳しい条件が課されていて難しいということです。ただ現実的にはあまり問題ないかもしれません。

【水島副会長】 だけども、うまく伝える方法がないということなんですね。

【渡辺】 会員にはいくらでも伝えられるんですけど、非会員名簿というのがあるわけではないので、一般の人にどうやって伝えるか。
寄付金に関するサイト(https://www.jbsoc.or.jp/kifu

【会長】 やっぱりSNSを使う? でも、注目してもらうための話題性も必要ですよね。

【水島副会長】 国民のみなさんも、応用的な科学だけを応援して、こういう基礎的な科学を応援しないということは全然ないと思うんです。ただ、それを私たちがどううまく伝えられるかということになるかなと思うんです。

【会長】 確かにそうなんだけど、現実は厳しいですね。やはり今、寄付がドーンと集まるのは、どうしても分かりやすくて話題性のあるものに対してだけですからね。そういう何か目に見える成果というのが一番なんだけど・・・。

【水島副会長】 はやぶさなどはみんな人気があるじゃないですか。あんなふうにうまくアピールできることがあるといいなと思うんです。小学生や中学生で将来研究者になりたいという人は多く、研究者ってまだ人気の職業なんですね。ぜひ基礎研究を支援していただけるとありがたいのですが。

【会長】 そうか、確かに地味だけど頑張ってるみたいな研究者を支援したいというすごく真っ当で上品な方々の層って、日本には間違いなく存在しますよね、且つお金持ちで(笑)。ただ、何か切っ掛けが必要ですよね。

【横溝副会長】 もちろんノーベル賞とかは大きなイベントですけどね。最近自分でもびっくりしているのはYouTuberです。僕は山登りが趣味なんですけど、昔から山登りって全然お金が儲からない業界でした。でも、最近登山YouTuberがすごいんですね。自分がやった登山をずっとGoProで撮っていって、それを編集して上げるんですよ。人気YouTuberの広告収入というのはかなりすごいみたいです。ちょっとかわいい女の子とかがやったほうがお客さんが多いんですけどね(笑)、それだけで食べている人がずいぶん増えたみたいです。

例えば大学や学会からプレスリリースみたいなものを紙で出しますけど、あれをビデオで出すのもいいかも。大きな研究成果については生化学会から定期的にYouTubeで出てくるというのをもうルーティン化してしまう。そうすると固定客がチャンネル登録をして時々見てくれると広告収入が塵も積もれば山となる。こうした活動を通じて、生化学会は頑張っているのだということが伝わって寄付文化にもつながればいいのかなと妄想したりするのですけども。魅力的なアピールができる人材が必要かもしれないけど。

【会長】 私の身近にも自転車のツーリング動画をupしている研究者YouTuberがいますけど、あれは定期的に高頻度でupすることがすごく大事みたいですね。じゃないと登録者数増えないみたい。とはいえ、じゃあ生化学会YouTubeを考えますか?

【横溝副会長】 この前も話題に出た、若い人にアピールできるTwitterとYouTubeをどうつなげるか、も課題ですね。

 

 

以下、〜その2〜 以降に続く。