会員の皆様方におかれましては、日頃から生化学の教育、研究にご尽力賜り、心から感謝申し上げます。
さて、昨年12月から中国武漢で発症が始まったとされている新型コロナウイスの感染(感染症名COVID-19、ウイルス名SARS-CoV-2)が世界中に拡大して、私達の社会活動や経済活動に大きな打撃を与えています。WHOの報告では、感染者数が1人から10万人となるのに67日かかりましたが、10万人から20万人への増加は11日、20万人から30万人への増加はわずか4日であり、3月29日現在の世界の総感染者数は63万5000人となっています。これは、感染拡大の凄まじさを物語っています。日本は他国に比べると、これまでは感染爆発の様子はなかったとされていますが、最近は東京、愛知、大阪等の大都市圏での感染者の増加がみられます。東京オリンピックの開催が延期されたことは、私達に大きな心理的影響を与えました。日本は春が年度の切り替えの時期であり、生化学会会員の多く方が関係する大学では種々の行事が大きく変更されました。卒業式や入学式は中止され、新学期の始業は遅れ、授業を開始するにあたっても様々の制限を設ける等の措置がなされています。会社におきましても、入社式や新入社員の研修のあり方を変更したり、テレワークの推進等を行われているようです。この春に、大学や会社等の次のステップに進まれる若い方々が晴れやかな気分にならないことを察しますと、一教員として心が痛みます。
学協会の活動を見ますと、2月と3月に開催予定であった多くの大会やシンポジウム、研究会等は中止や延期になりました。また、4月以降の大会等でもいろいろな対応がなされています。生化学会では、5月から6月にかけて全国の8支部で支部例会を行います。支部会の活動が活発であることは生化学会の特徴の一つであり、支部例会を通して会員の発表の場や交流の機会を設けることを目的としています。しかし、新型コロナウイスの影響により、必ずしも会場で開催ができない状況があり得ます。感染の程度等は地域により差があり、生化学会として一律の方針決定はできませんが、考え方の基本は支部長と支部例会長にお伝えしたところです。仮に、会場での開催を行わない場合でも、HPへの掲載や抄録集等の誌上開催をもって、主催者や発表者の記録が残るようにしていただきたいと思います。生化学会大会につきましては、現時点では9月にパシフィコ横浜ノースで開催予定であり、一般演題の募集や事前登録が始まっていますので、多くの会員の方にご発表、ご参加をしていただきたいと思います。勿論、今後の感染の状況や社会の状況によっては、慎重に対処しなければならない事態になることも予想されます。その際には、生化学会と大会関係者が一丸となって対応いたします。4月13日に開催予定である理事会もオンライン会議とすることになりました。本理事会では、2021年度予算や2023年生化学会大会会頭候補の選出、代議員・理事の選出方法や再任回数等に関する重要な審議がありますので、決議事項につきましては、会員の皆様方に後日連絡を差し上げます。
4月からの大学の講義では、多くの学生を講義室等に集めないという方針から、双方向授業を取り入れようとしています。そのためには、学生全員が一定レベル以上のPCとインターネット環境を有することや、大学がこれまで以上にWi-Fi環境を整備することが求められます。これを機会に、大学内や会社内の会議、出張を伴う会議等がオンライン会議へと移行するかもしれません。しかし、生化学会会員の多くの方の日常活動である学部学生実習の指導や研究室でのWetの実験は、オンラインでは行えません。マスクは不足していますが、実験用試薬等は今のところ大きく影響はしていないように感じています(今後の供給には不安要素はありますが・・)。実験室の種類にもよりますが、可能な限り定期的に換気し、Discussionする際にはマスクを着用し、これまで以上に手の消毒や共通機器の消毒に留意する等を行い、実習や実験をこれまで通り行うことが大切です。欧米の大学の研究室では閉鎖されているところも多数あるようですが、日本ではこのような事態に至らないようにしなければなりません。新型コロナウイスは、私達の日常生活や社会活動に今しばらくは大きな影響を与えることは間違いありません。このような中で、私達生化学会会員ができることは、感染拡大に陥らないための安全対策に最大限配慮するとともに、教育、研究活動を維持していくことかと思います。
生化学会のホームページ(http://www.jbsoc.or.jp/)の右上のバナー(日本生化学会チャンネル)にConBio2017のプレナリーレクチャー10編の動画と2018年第91回生化学会大会(京都)の特別講演3編の動画を配信しています。内容は専門的ではありますが、このような(外出自粛要請が発出されている)機会に、日本を代表する最先端の科学研究の成果を高校生や市民の方々に知っていただくことも、私共の活動の一つかもしれません。現在、生物科学学会連合を通して、これらの講演動画の存在を知っていただくように、スーパ―サイエンスハイスクール等に連絡をしていただいているところです。会員の皆様におかれましては、研究室や自宅でご覧になることに加えて、生化学会関係者以外の方に、この存在をお伝えいただければ幸いです。終息への道筋はまだ見えませんが、私達は、新型コロナウイルスの性状を正しく理解し、その感染拡大を防ぐための適切な行動をしながら、なすべき活動の質と量を低下させることなく継続できる教育者・研究者の集団です。会員の皆様方が協力して、この難関を乗り越えられることを心から願っています。
2020年3月30日
会長 菊池 章