日本生化学会会員のみなさん、

 

電子メールでお知らせしたように、これから毎月、私から会員のみなさんに宛てたメッセージ「会長便り」をウェブサイト上に掲載します。みなさんの研究やキャリアパスに役立つ情報を発信することを目的に、私が気になる世の中の出来事を記述します。

 

最初の数回は研究論文に関する話題を取り上げ、第一回目はSan Francisco Declaration on Research AssessmentDORA)による論文評価のやり方の提言を紹介します。

 

日々の実験で得られる研究成果は、学術雑誌(ジャーナル)上の論文として公表されます。その内容がすばらしければ、メディアで報道されたり別のジャーナルで紹介されたりして評価され、時には執筆者が讃えられます。しかし、論文の内容が優れているかどうかの判定は読む人によって異なるでしょう。研究成果の正しい評価はたいへん難しい課題です。

 

優れた内容の論文だけを掲載するジャーナルがあれば事は簡単ですが、そのようなものは存在しません。一方で、‘top-tier journal’とか‘high-impact journal’とよばれるジャーナルは存在し、Cell誌、Nature誌、及びScience誌がそれにあたることになっています。それらのジャーナルに論文が掲載されることで、ポジションを得たり研究費を獲得できたりすることが実際にあるようです(The Golden Club in Nature 502:291)。みなさんご存知のように、これらのジャーナルは高いJournal Impact FactorIF)値を持ちます。IFは、Institute for Scientific Information社(現、Thomson Reuters社)を興したEugene Garfield氏によって1950年代に考案されました(「科学を計るガーフィールドとインパクトファクター」、窪田輝蔵著、インターメディカル、1996年)。以前よりIFの利用法はさまざまに議論されてきましたが、最近になって大きな動きがありました。それがDORAです。
http://www.ascb.org/dora/

 

DORAの宣言は、“個人/機関/地域の研究成果の評価はその内容に基づいてなされるべきであり、IFの誤った使い方に依ってはならない”というものです。全文の和訳もウェブサイトに掲示されているので、ぜひ読んでみてください。当初の署名人には一部のtop-tier journalの編集長、トップランクの研究機関、及び多くのノーベル賞受賞者が含まれており、今でもその数は増えつつあります。そこにはCell Structures and Functions誌(細胞生物学会)とGenes to Cells誌(分子生物学会)の編集長の名前もありますが、私たちのJournal of Biochemistryはまだ加わっていません。これについては学会としての対応を含めて今後に検討される予定です。

 

次回は、IF値を使わずに論文や研究者の評価をどうやって数値化できるのかを考えます。

 

2013年12月
中西義信