会長だより
会長だより第5号:~第93回日本生化学会大会のアンケート調査の結果と今後の日本生化学会大会について~
生化学会会員の皆様
日頃から生化学会の活動にご尽力いただき、大変有難うございます。9月14~16日に第93回生化学会大会が史上初めて完全オンライン形式で開催されました。予期せぬCOVID-19の影響で、5月に通常開催形式からオンライン開催形式への変更を急遽決定し、それから配信システムを構築するという緊急事態でした。しかし、大きなトラブルもなく大会を終了できましたことは、深見希代子会頭と大会組織委員の先生方、事務局職員の方のご尽力と会員の皆様方のご協力によるものと心から感謝申し上げます。参加者、発表者とも例年の約2/3でありましたが、それは致し方ないことかと思います。来年以降、これまで通りの参加者、発表者が集う大会となることを信じています。本日は、先日皆様方にいただきました第93回日本生化学会大会のアンケート調査の結果につきましてご報告し、今後の大会のあり方を一緒に考えたいと思います。アンケート結果は、生化学会のHP (http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2020/10/52f9523867fbd1824817371f7e3cce8a.pdf)(左のメニュの大会→(下までスクロール)大会終了後アンケート→第93回大会) に掲載してありますので、ご覧ください。
回答者は940人で、うち生化学会員は838名、大会参加者は823人でした。参加された方の76%は、大会プログラム全体に、「大いに満足」または「満足」(以下満足)されていました。プレナリーレクチャーならびにシンポジウムは、80%以上の参加者が満足されていました。一方、口頭発表は72%、ポスター発表は62%とやや満足度が下がっていました。来年以降の大会のあり方についての質問に対しましては、「従来通りの会場での開催(オンサイト)」と「一部を会場で一部をオンラインとするハイブリッド」は、ほぼ同数で42%ずつの支持があり、一方「完全オンライン」は13%と少数の方が支持されました。この傾向は、年代に関係なく、20代から70代以上まで、ほぼ同様でした。したがいまして、多くの会員が現地で開催する対面型の大会を望んでおられ、今回のような完全オンライン型の開催は必ずしも望んでおられないことがわかりました。大会に参加することの意義は、自身の研究内容を発表し、意見をもらったり、新しい知見に触れたりすることに加えて、旧交を温め、新たな知人を増やしたりすること等、現地に赴き直接人と会うことにあると、改めて認識しました。勿論、オンライン開催のメリットも多数あり、参加のための移動時間を必要としないことは素晴らしいと感じました。いろいろな理由で、家庭や職場を離れることのできない研究者が、大会に参加でき、また、大会後もストリーミング配信により発表内容を視聴できることも、大きなメリットです。海外の著名な研究者に来日していただくことなく、その講演を視聴できることも、これからの国際化を考える上で貴重な経験でした。
自由記述の欄には、たくさんの貴重なご意見をいただきました。これらのご意見は理事会ならびに大会組織委員会で共有させていただき、今後の大会開催のあり方に反映させていただきたいと思います。参加費につきましては、高いという回答が45%あり、厳しいご意見も多数いただきました。この点につきまして説明をさせていただきます。生化学会大会のような3000人規模の会議を1か所で開催できる会議場は限られています。その会議場を3日連続して使用するためには、3年以上前から予約をしなければなりません(開催3日と準備日1日の4日間使用)。また、会議場にもよりますが、1年以上前(366日以前)のキャンセルであれば全額の30%、365日前以降のキャンセルでは全額の50%、1か月前のキャンセルですと全額を、キャンセル費として支払わなければなりません。今回、私共もキャンセル費の減額につきまして会議場と交渉をいたしましたが、会議場側も管理や従業員の雇用があり、簡単ではありません。さらに、オンサイト開催ではないために、企業展示による収入等は全く無くなりました。通常の生化学会大会をパシフィコ横浜のような会議場で開催するためには、私共の参加費だけで賄うことは不可能で、大会予算全体の収入の約半分は、企業の展示や広告、ランチョンセミナーによる収入や財団等からのご寄付によるものです。大会収支が赤字となり、生化学会本体から多額の補填をすることになりますと、公益社団法人として生化学会が本来なすべき活動を縮小しなければなりません。このような事情により、完全オンライン形成としました第93回大会におきまして、例年通りの参加費とさせていただきましたことを、是非ご理解いただきたいと思います。大会の収支等につきましては、総会でご報告いたしますので、ご出席いただければ、生化学会ならびに大会の財政につきまして、ご理解いただけるものと思います。これからの大会のあり方としまして、会場予約をすることなく、完全オンラインですることを決定すれば、参加費を減額できると試算しています。
これらを踏まえまして、来年の第94回大会の開催方針につきまして、深水昭吉会頭を中心とする大会組織委員会において計画していただいています(https://www2.aeplan.co.jp/jbs2021/)。来年のCOVID-19の状況につきましては、未だ予測がつかない状況ですが、ハイブリッド方式を計画されているとのことです。ハイブリッド開催方式の難しさは、どのプログラムをオンサイトで、どのプログラムをオンラインで行うかの割合を決めることです。これは大会場の確保やオンラインシステムの構築等、大会の運営や予算に直結します。ある程度の人数が会場に集まり、同時にオンラインも可能にし、予算面でも無理をしないということは大変難しい問題です。このような問題につきまして、会員の皆様のご意見やお知恵を是非いただきたいと思います。
アンケートでは、今後の大会のあり方として英語化(国際化)についてもお尋ねしました。生化学会大会ではこれまで、使用言語は自由であるため、基本的には日本語を使用してきました。一部シンポジウムに外国人講演者が参加する場合にのみ英語発表を行っていました。アンケート結果では、「言語は自由が望ましい」が最も多い意見でした(複数回答可の設問で43%)。一方、「半日あるいは1日程度であれば英語セッションの枠を導入すべきである」と「企画シンポジウムは英語で行う」はあわせれば22%、「口頭発表のスライドのみ英語」と「プログラム、要旨、ポスターは英語」はあわせれば35%の回答もあり、英語化に前向きとも取れる意見もありました。自由記述のご意見は「日本で行い、日本人がほとんどの大会だから、日本語ですべき」から「この時代、英語化は当然」まで、多種多様です。私も、日本語で発表し討論する方が、理解が深まるというご意見には賛同しますが、私達生化学会会員は基本的に日頃から、英語の文献を読み、英語で論文を執筆しています。生化学会の機関誌のJ Biochemistryが1925年に発刊された理由は、まさに英語化に対応するためでした。それから約100年が経ち、オンライン形式により、国際会議に参加しやすくなる環境が作られつつあります。勿論、前述の通り現地に赴き、人と直接会話することの重要性はありますが、人の往来が必要なくなるという意味で極めて効率的です。このような機会に、生化学会大会も恒常的にプログラムの一部は英語化し、海外からのオンラインでの参加者を増やすことを考える時期になっているのかもしれません。次回会頭の深水先生も生化学会大会の国際化に向けて、いろいろな案を考えておられるようですので、会員の皆様が協力して盛り上げていただけることを期待しています。
第93回日本生化学会大会は、私達にこれまでにない多くの経験をさせてくれました。完全オンライン開催となり、「こんなことができるんだ」、「これは違うな」等、参加された皆様方はいろいろな感想を持たれたと思います。その経験をこれからの大会のあり方、ひいては生化学会そのもののあり方にポジティブになるように生かしていただき、今後とも生化学会の活動にご協力いただけますようお願い申しあげます。
2020年10月30日
会長 菊池 章
会長だより第4号:~日本学術会議会員の任命拒否に関する生化学会の対応について~
生化学会会員の皆様方
いつも生化学会の運営にご協力いただき誠に有難うございます。9月14~16日に第93回生化学会大会が史上初めてWeb開催されました。会員の皆様からのアンケートの回答をいただきましたので、この件につきましては、改めて報告させていただきます。
本日は、政府の日本学術会議会員の任命拒否に関する生化学会の対応につきまして、ご報告させていただきます。日本学術会議(http://www.scj.go.jp/ja/scj/index.html)は、人文・社会科学(第1部)、生命科学(第2部)、理学・工学(第3部)の全分野の科学者の代表機関であり、内閣総理大臣の所轄の下、政府から独立して職務を行い、種々の提言等を行っています。一般的にはマスコミ等で取り上げられることは少なく、今回のことで存在を知った会員の方も多いかと思いますが、科学者の意見を直接政治、行政に届けることができる組織です。
今回、新規に学術会議が推薦した105名のうち、6名の会員候補が任命を拒否されました。拒否の理由は明確に示されていませんが、科学者が自由に発言、行動することにより、何らかの活動の障害になるということであれば、憂慮する事態と考えます。
我が国には、生物科学学会連合という組織があり、現在32団体が加盟しています。生化学会はその構成学会です。生物科学学会連合は日本学術会議とも連携しており、生物科学学会連合が、日本学術会議からの会員候補の任命拒否に対する要望書を支持し、声明を発表することになりました。生化学会としましては、理事会でも本件を諮り、生物科学学会連合の対応に賛同することといたしました。多くの学協会の意見を集約して、共同声明を発出することにより、対話による早期の解決が図られることを願っています。
会員の皆様におかれましては、今しばらくこの問題を注視いただけるようお願いいたします。
2020年10月9日
会長 菊池 章
会長だより第3号:~生化学会の組織について~
6月15日付で第93回生化学会大会・会頭の深見先生から大会のWeb開催の概要についてメール配信されました。深見会頭をはじめ組織委員会の先生方が、この新しい大会のあり方について議論され、未来型大会のモデルとなるようにご努力なさっています。リアルの大会において、研究者同士が直接討論することの重要性は私達が認識しているところではありますが、Web上でのリモート開催には、時間と場所による制約を乗り越えるメリットもあります。例えば、期間限定ではありますが、ストリーミング配信された講演内容を自分のペースで何度でも視聴することが可能です。また、大会会場に足を運ばなくても、オンラインでの発表であれば、臨場感をもって大会に参加することもできます。COVD-19の影響でやむおえなくWeb開催となりましたが、これを新たな試みに挑戦する機会ととらえて、是非大会にご参加いただきたいと思います。Late-breaking Abstractsの募集も始まっていますし、当日参加も受け付けますので、是非多くの会員の皆様方にご参加をお願いいたします。
さて、今回は、4月13日に行われました第158回理事会での決議内容のうち、下記の3項目につきましてご報告したいと思います。
1)代議員・理事の再任(重任)の変更について
2)「早石修記念海外留学助成」支給開始期間延長について
3)第96回(2023年)大会会頭候補者の承認
1)代議員・理事の再任(重任)の変更について
現在の定款・細則では代議員・理事の任期は2期4年まで連続就任が可能です。しかし、選挙により理事が選出されるため継続就任する理事も少ないことから、中長期の計画が立てづらいこと、会長就任者には常務理事・副会長の就任経験が望ましいことから、任期を3期6年まで連続就任できるように定款・細則を変更することとしました。この内容を理解していただくために、生化学会の組織についてご説明いたします。
日本生化学会は2012年の公益法人化にともなって、現在の代議員制となりました。正会員約40名につき1名の割合で代議員が選出され、生化学会の意思決定機関である総会は「代議員」によって構成されます。支部の会員数に応じて代議員数が決めらており、代議員は支部毎の選挙で選ばれます。現在は合計171名の代議員がおられます。次に、代議員の中から理事が選挙で選ばれます。生化学会には、医学・歯学、理学、農学・工学、薬学の4つの部門があり、それぞれの部門から代議員の互選により3~4名の部門理事が選ばれます(現在は14名)。それに加えて、8つの支部の各支部長が支部推薦理事となります。最終的に総会で承認されると理事が決定します。理事は定款上20~25名となっていますが、現在は22名です。このような仕組みによって、部門間の偏りなく理事が選ばれ、支部から理事会への提案・報告がスムーズになります。さらに、理事の互選によって、会長1名、副会長2名、常務理事6名が選出され、実質的な執行部として学会の運営にあたります。なお、理事会と会計の監督をしていただく監事は3名以内で、会長から委嘱します。
このような体制で生化学会は運営されていますが、上述しましたように、代議員と理事の連続任期は2期4年であり、選挙により選出されるために、4年間継続して役職に就かれる方が少ない現状があります(現在の理事で前期から継続している理事は22名中3名です)。さらに、理事の中から会長と副会長、常務理事が選出されますが、選挙という性質上、これまでの理事会での議論に加わったことがない方が会長職に就かれることもあります。生化学会の将来を考えますと、理事会が長期的視野を持って、計画的に、継続的に種々の事案を実行していかなければなりません。継続性という視点で、代議員と理事の任期を3期6年まで連続就任できるようにいたしますので、是非会員の皆様方にはご理解を賜り、生化学会の現状と将来を考えてくださる代議員を選出していただきたいと思います。
代議員と理事の選出における問題として、女性会員の少なさもあります。現在の正会員の男女比は女性22%ですが、代議員と理事の女性比率は10%程度ですので、女性比率を上げるべきであると考えます。ジェンダーの問題はいろいろな分野で議論されていますが、男女を問わずそれぞれのジェンダーを、組織の一定割合にすることは可能であり、その努力をしていかなければなりません。そのために重要なことは代議員選挙です。2021年7月に代議員選挙が行われますが、その際に各支部に女性候補者が20%程度選出されるよう依頼しようと考えています。女性会員の皆様も、積極的に代議員、理事として生化学会の運営に携わっていただけるよう、ご協力ください。
2)「早石修記念海外留学助成」支給開始期間延長について
2020年度「早石修記念海外留学助成」採択者の給付開始が2020年4月1日から1年ですが、COVID-19感染拡大防止のため、多くの留学先機関で閉鎖やビザ発行停止となりました。その救済措置のため、給付開始期間を2020年度に限り1年間の延長を認めることとしました。
また、現在2021年度「早石修記念海外留学助成」の募集を行っていますが、COVID-19により影響を受ける際には、柔軟に対応したいと考えていますので、是非積極的にご応募ください。
3)第96回(2023年)大会会頭候補者の承認
2023年開催予定の第96回大会会頭候補者として、住本英樹教授(九州大学学院医学研究院)を理事会から推薦することになりましたので、11月の総会で承認していただきたいと存じます。2021年大会は深水昭吉教授(筑波大学生存ダイナミクス研究センター)、2022年大会は門松健治教授(名古屋大学医学系研究科)に会頭として、大会を運営していただきます。本年の大会をモデルとして、これからの生化学会大会がどのように変わっていくかが大変楽しみです。
日本では非常事態宣言が解除され、多くの国で経済や交通を活発化させようとする動きが高まっています。一方で、COVD-19に対する心理的不安感は払しょくされないために、以前とは同じ生活にはなっていません。大学も研究活動は戻りつつありますが、学部学生に対する講義はリモートで行っているところが多いかと思います。「New Normal」へ私達が適応していくことが求められています。
繰り返しになりますが、9月にWeb開催される生化学会大会への積極的なご参加をお願いいたします。会員の皆様のご健康ならびに研究と教育におけるご活躍を祈念しています。
2020年6月19日
会長 菊池 章
会長だより 第2号:~大会のWeb開催への挑戦~
5 月 1 日付で第 93 回生化学会大会・会頭の深見先生との連名で、会員の皆様方に第 93 回大会は Web 開催とさせていただく旨の連絡を差し上げました。本件につきまして、補足説明をさせていただきます。
前回の会長だよりを配信した3月30日以降COVID-19に関する国内外の状況は悪化し、我が国でも4月7日に緊急事態宣言が発令され、大学でも教育活動に加えて、研究活動も自粛されるようになりました。学部学生は登校禁止状態を継続して、修士、博士課程学生、技術職員、研究者、教員も不要不急の研究以外は原則行わないという体制になっているかと思います。このような状況下、大会組織委員会と理事会は、9月開催予定の大会のあり方につきまして、複数回にわたりWeb会議とメール会議で議論を行いました。日本生化学会は1925年を第1回として、1944年の流会(第2次世界大戦の影響)ならびに1945年~1947年の不開催を除けば、90年以上にわたり毎年1回の大会を開催してきました。その意義は、①自身の研究成果を発表し、関連領域の研究者からの意見をうかがう、②自身の専門外の領域の発表を聴講し、新たな知識を獲得する、③旧交を温め、人的交流を行う等が挙げられるかと思います。国内外で催される種々の学術集会の意義も概ね同様と理解しています。しかし、これらの活動は、まさに3つの〝密″が重なる場を提供することにもなります。最近は全国の新規感染者数は減少傾向にあり、夏を挟んだ9月下旬には新規感染者数は相当数少なくなることも予想されます。しかし、その時点において生化学会大会のような3000人規模の集会を開催することが社会的に許容されるかは不透明ですし、会員の皆様も横浜の会議場に足を運ぶことについて不安を持たれるかもしれません。また、生化学会大会の開催が新たな感染拡大の引き金になるリスクも配慮しなければなりません。一方で、4月末までに一般演題応募数は例年通りあり、5月12日がその募集締め切りであることから、どのタイミングで大会開催の方針をアナウンスすべきかという議論も行いました。決定の時期をもう少し先にして、通常開催が真に不可能であることが決定的になった時にWeb開催のアナウンスを行うことも可能ではありましたが、私共としては、会員の皆様方に、速やかに、正直に、決定したことをお伝えした上で、大会への参加をお願いしたいと考えました。
大会を Web 開催することは初めての試みであり、大会組織委員会にも参加者にも不安があります。Web開催に関するご意見は当然のことながら、賛否両論があると思います。ただ、私共としましては、会員の皆さん方に発表の場を提供したいということが一番の気持ちです。伝統的に生化学会大会は、若手研究者が口頭発表できる機会を多くすることを心がけ、一般口演セッション毎に優秀発表賞を選出するという方針で行ってまいりました。大学院学生を含む若手研究者の方々は実験が制限され、研究が進捗しない苛立ちや不安があろうかと思いますが、現時点での成果をもって応募していただくことをお願いいたします。人前で発表するということを通じて、研究成果をまとめたり、ラボのメンバー以外の意見を聞くということは、研究遂行にあたり大変重要な過程です。是非大会での発表をそのような場にしていただきたく思います。その支援のために、私達は全力を尽くします。
Web 開催をどのようにするかは、これから大会組織委員会で詳細を決めていきます。すでに行われた他の大会のWeb 開催の様子も参考にしながら、双方向性講演等の手法も一部取り入れ、皆様にとりまして有意義な大会になるように最善を尽くします。平時であれば、このような取り組みをすることはまずないと考えられますが、今回私達は大きな社会実験を行う事態に遭遇しました。是非、この試みに積極的にご参加いただき、新たな大会のあり方を考える場となるようにしていただきたいと思います。
会長としまして、財務的なことも少しお伝えしたいと思います。実は大会を開催するにあたっては、私達の参加登録費と生化学会本部からの補助金は全予算の約 45%を賄うにすぎません。残り約 55%は企業展示収入や財団からの寄附等により賄われています。今回、Web 開催を決定したことにより、企業や財団からの収入はほとんど期待できません。一方で、会場のキャンセル費やこれまでの経費、Web 開催用の新たなシステムの構築等の費用は発生します。日本生化学会は公益社団法人として堅実な財政状況にあり、今回の大会形式の変更により生じる赤字に対しても対応していける体力はあります。しかし、大会は赤字を出さずに運営することが基本であり、学会本部からの支出が増えますと、公益社財法人としての各種活動の取り組みが削減されることにもなりかねません。そのためも、会員の皆様方が例年通りに、大会に参加していただき、学術的にも運営的にも、生化学会を支えていただくことが必要になります。皆様方のご理解と行動により、本大会を不安視することなく開催できるようお願いいたします。
アルバート・アインシュタイン博士は次のように言っておられます(「46 の名言とエピソードで知るアルバート・アインシュタイン」から)。“Out of clutter, find simplicity. From discord, find harmony. In the middle of difficulty lies opportunity.”」。私は、「私達は一つの事象からその対極にある事象を見出し、困難の中に新たな機会を見つけることができる」と解釈しました。皆様は如何でしょうか? 私達は今、不確実で混とんとした状況の中にいて、先が見えない毎日を生きています。一方で、新たな試みもなされており、今後の社会変容をきたす兆しもあります。大会の Web 開催もまさにその一つであり、是非多くの会員の皆様方に例年通りご参加いただき、実りのある大会となるようにご協力をお願い申し上げます。
4 月 13 日に行われました理事会では重要な決議をいくつか行いましたので、それは次回の会長だよりで報告させていただきます。会員の皆様方におかれましては、健康に留意されて、教育、研究活動が一日でも早く元の状態になるように、ご協力、ご尽力下さい。
2020年5月7日会長 菊池 章
会長だより 第1号:~新型コロナウイルス感染に対して私達がなすべきこと~
会員の皆様方におかれましては、日頃から生化学の教育、研究にご尽力賜り、心から感謝申し上げます。
さて、昨年12月から中国武漢で発症が始まったとされている新型コロナウイスの感染(感染症名COVID-19、ウイルス名SARS-CoV-2)が世界中に拡大して、私達の社会活動や経済活動に大きな打撃を与えています。WHOの報告では、感染者数が1人から10万人となるのに67日かかりましたが、10万人から20万人への増加は11日、20万人から30万人への増加はわずか4日であり、3月29日現在の世界の総感染者数は63万5000人となっています。これは、感染拡大の凄まじさを物語っています。日本は他国に比べると、これまでは感染爆発の様子はなかったとされていますが、最近は東京、愛知、大阪等の大都市圏での感染者の増加がみられます。東京オリンピックの開催が延期されたことは、私達に大きな心理的影響を与えました。日本は春が年度の切り替えの時期であり、生化学会会員の多く方が関係する大学では種々の行事が大きく変更されました。卒業式や入学式は中止され、新学期の始業は遅れ、授業を開始するにあたっても様々の制限を設ける等の措置がなされています。会社におきましても、入社式や新入社員の研修のあり方を変更したり、テレワークの推進等を行われているようです。この春に、大学や会社等の次のステップに進まれる若い方々が晴れやかな気分にならないことを察しますと、一教員として心が痛みます。
学協会の活動を見ますと、2月と3月に開催予定であった多くの大会やシンポジウム、研究会等は中止や延期になりました。また、4月以降の大会等でもいろいろな対応がなされています。生化学会では、5月から6月にかけて全国の8支部で支部例会を行います。支部会の活動が活発であることは生化学会の特徴の一つであり、支部例会を通して会員の発表の場や交流の機会を設けることを目的としています。しかし、新型コロナウイスの影響により、必ずしも会場で開催ができない状況があり得ます。感染の程度等は地域により差があり、生化学会として一律の方針決定はできませんが、考え方の基本は支部長と支部例会長にお伝えしたところです。仮に、会場での開催を行わない場合でも、HPへの掲載や抄録集等の誌上開催をもって、主催者や発表者の記録が残るようにしていただきたいと思います。生化学会大会につきましては、現時点では9月にパシフィコ横浜ノースで開催予定であり、一般演題の募集や事前登録が始まっていますので、多くの会員の方にご発表、ご参加をしていただきたいと思います。勿論、今後の感染の状況や社会の状況によっては、慎重に対処しなければならない事態になることも予想されます。その際には、生化学会と大会関係者が一丸となって対応いたします。4月13日に開催予定である理事会もオンライン会議とすることになりました。本理事会では、2021年度予算や2023年生化学会大会会頭候補の選出、代議員・理事の選出方法や再任回数等に関する重要な審議がありますので、決議事項につきましては、会員の皆様方に後日連絡を差し上げます。
4月からの大学の講義では、多くの学生を講義室等に集めないという方針から、双方向授業を取り入れようとしています。そのためには、学生全員が一定レベル以上のPCとインターネット環境を有することや、大学がこれまで以上にWi-Fi環境を整備することが求められます。これを機会に、大学内や会社内の会議、出張を伴う会議等がオンライン会議へと移行するかもしれません。しかし、生化学会会員の多くの方の日常活動である学部学生実習の指導や研究室でのWetの実験は、オンラインでは行えません。マスクは不足していますが、実験用試薬等は今のところ大きく影響はしていないように感じています(今後の供給には不安要素はありますが・・)。実験室の種類にもよりますが、可能な限り定期的に換気し、Discussionする際にはマスクを着用し、これまで以上に手の消毒や共通機器の消毒に留意する等を行い、実習や実験をこれまで通り行うことが大切です。欧米の大学の研究室では閉鎖されているところも多数あるようですが、日本ではこのような事態に至らないようにしなければなりません。新型コロナウイスは、私達の日常生活や社会活動に今しばらくは大きな影響を与えることは間違いありません。このような中で、私達生化学会会員ができることは、感染拡大に陥らないための安全対策に最大限配慮するとともに、教育、研究活動を維持していくことかと思います。
生化学会のホームページ(http://www.jbsoc.or.jp/)の右上のバナー(日本生化学会チャンネル)にConBio2017のプレナリーレクチャー10編の動画と2018年第91回生化学会大会(京都)の特別講演3編の動画を配信しています。内容は専門的ではありますが、このような(外出自粛要請が発出されている)機会に、日本を代表する最先端の科学研究の成果を高校生や市民の方々に知っていただくことも、私共の活動の一つかもしれません。現在、生物科学学会連合を通して、これらの講演動画の存在を知っていただくように、スーパ―サイエンスハイスクール等に連絡をしていただいているところです。会員の皆様におかれましては、研究室や自宅でご覧になることに加えて、生化学会関係者以外の方に、この存在をお伝えいただければ幸いです。終息への道筋はまだ見えませんが、私達は、新型コロナウイルスの性状を正しく理解し、その感染拡大を防ぐための適切な行動をしながら、なすべき活動の質と量を低下させることなく継続できる教育者・研究者の集団です。会員の皆様方が協力して、この難関を乗り越えられることを心から願っています。
2020年3月30日
会長 菊池 章