会長だより

会長便り第3号:2025年新年のご挨拶

2025.1.6

会長便り第3号:2025年新年のご挨拶

2025年1月6日
横溝 岳彦

 

生化学会会員の皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 

生化学会会長の任期は2年間で、すでにその半分が経過したことになります。福岡で開催された第96回大会(住本英樹会頭)で一條秀憲前会長から会長を引き継いでから、生化学会が抱えている様々な問題に対処すべく尽力して参りました。

 

最も大きな問題であった会員数の減少に関しては、前執行部が学部生・修士大学院生の年会費を無料にするという思い切った施策を行ったため、会員数はわずかながら上昇に転じました。しかしながら年会費無料の学生会員が増えた一方で正会員は減少しており、学会の会費収入は減少傾向にあります。また、コロナ禍以降の企業業績の悪化やオンラインでの広告の割合が増大したこともあって、学会への寄付や大会の企業展示、ランチョンセミナーの申し込みは低調な状態が続いています。会場費、通信費、宿泊費をはじめ、様々な物価の上昇のため、学会の財政は厳しい状況が続いていますが、事務局の努力のおかげで黒字の運営が維持できています。しかしながら、10年間以上にわたって会費の値上げを行っていないこと、100周年を迎えるにあたって新たな事業の立ち上げを計画していることもあり、正会員の年会費を値上げする方向で現在検討を行っています。単なる値上げだけを行うのではなく、博士大学院生や、学位取得後の若手の正会員、また、退官後の正会員の皆様の会費負担を軽減できるような方策も併せて検討しています。具体的な内容がまとまり次第、理事会と総会で皆様のご意見をお聞きしたいと考えています。生化学会の継続と発展のため、皆様のご理解を頂けますと幸いです。

 

昨年は、科研費を中心とした研究費の総額が増えていない事に加えて、諸物価の高騰や円安のために、研究費が実質的に減少していることが大きな問題として浮かび上がってきました。本来、基礎科学の研究は大学に交付される運営交付金と競争的研究資金の2本立てで行われるべきだと考えていますが、運営交付金は減少する一方であり、競争的研究資金に占める科研費の割合は平行線をたどっています。このような問題に対して、生化学会単独で国に働きかけることは難しいのですが、昨年は、生化学会をはじめ34学会が加盟している生物科学学会連合(東原和成代表)を中心とした大きな動きがありました。まずは焦点を絞りやすくするため、あえて運営交付金問題には触れずに科研費の全体額増加だけを訴え、インターネットで研究者中心とした署名を集めました。その結果をもとに、生物科学学会連合が中心となり、化学、医学、天文学、心理学、教育学、工学、農学、脳科学、歴史学、スポーツ科学、自然史学、栄養学、薬学、社会学などの学会連合をまたいだ250学会から「科学研究費助成事業の全体額増加に関する要望書」を、当時の岸田文雄総理大臣、盛山正仁文部科学大臣などに直接提出しました(9月6日)。この訴えは経済界にも伝わったようで、経団連は「フユーチャー・デザイン2040年」と題した提言のポイントとして、「科研費を早期に倍額に増額すること」、「国立大学への運営交付金の増額」を盛り込み、これがマスコミでも報道されました(12月上旬)。研究者だけではなく、経済界もまた、日本の研究の衰退が経済の衰退につながることを危惧していることが明確に示されたことは、研究費増額への大きなブレイクスルーにつながることが期待されます。

 

こうした動きと関連があるのかどうかは不明ですが、文部科学省は3月26日に「博士人材活躍プラン~博士をとろう~」を取りまとめ、ホームページに掲載しました。「文部科学省としては、博士を目指したい方が安心して学修できる環境を整え、高い専門性と汎用的能力を有する人材として生き生きと活躍することを後押ししていきます。」との記載があり、企業側に博士号取得者の積極的な採用を促すことが企業の発展につながるとうたっています。研究費増額や研究者の処遇改善への働きかけは生化学会単独では困難な問題ですが、他学会や経済界と足並みをそろえ、引き続き政府への訴えを継続して行きたいと考えています。

 

昨年は生化学会の国際交流事業にも大きな変化があった年でした。ポジティブな点としては、韓国生化学会・分子生物学会(KSBMB)とのMOUの締結(5月28日)があげられます。KSBMBは19,000人の会員と76年の歴史を有する大きな学会であり、近年著しい経済と研究の発展を遂げている韓国を象徴する学会です。MOU締結日に、KSBMBの年会において第一回JBS-KSBMB Joint Symposiumが開催されました。本年は日本で第二回JBS-KSBMB Joint Symposiumを開催すべく準備を行っています。一方で、アジア・オセアニア地区生化学分子生物学者連合(FAOBMB)との関係については問題が生じています。FAOBMBは過去に日本生化学会が中心となって立ち上げた学者連合であり、現在でも日本生化学会が最も高額な経済的負担を行っています。最近では菊池章教授にプレジデントを務めて頂いたのですが、菊池教授以降、中心的メンバーに日本人が選出されず、日本生化学会のガバナンスが失われつつあります。昨年の理事会では、このFAOBMBとの関係について議論が行われ、近い将来にFAOBMBを日本で開催することを含めて、より積極的にFAOBMBに関わっていくことになりました。

 

さて、日本生化学会は本年、大きな節目〜創立100周年〜を迎えます。「生化学会100周年記念サイト」を立ち上げるとともに、創立100周年記念ロゴマークの公募を行いました。69点にものぼる応募を頂き、最終候補23作品に対して公開投票を行いました。採択されたロゴマークは、創立100周年の様々なイベントで使用されることになります。応募いただいた多くの皆様に感謝申し上げます。11月3〜5日に京都で開催される第98回日本生化学会大会(岩井一宏会頭)では、3名のノーベル賞受賞者による記念講演、100周年記念事業(記念シンポジウム、若手研究者による「未来の生化学」発表賞、100周年記念花火大会)を計画しています。また、これとは独立して、12月に東京大学安田講堂において、日本生化学会創立100周年記念市民公開講座を計画しています。皆様の積極的なご参加をお願い申し上げます。

 

最後に2025年が日本生化学会会員の皆様方、そして日本生化学会にとって素晴らしい年となることを祈って、新年の会長挨拶とさせていただきます。長文にお付き合い頂き、ありがとうございました。